『たまごの祈り』⑮

 あんまんとピザまんと、パック入りの緑茶にチーズ味のスナック菓子、ブラックチョコレート味の箱入り棒アイスを持って家に戻ると、先ほどまで玄関になかった革靴があったので、直也くんという人が来ていることがすぐにわかった。がらんとした冷凍庫にアイスをしまっていると、奥の部屋から笑い声がした。
「買ってきたよ、入ってもいい?」
 柳の部屋をノックして呼びかけたら、いいよ、直也を紹介したいから伊田も一緒に話そうと返事が来たので、おそるおそる扉を開けた。奥に座っているのが直也くんという人らしかった。細く切れ長な目と、八重歯が覗く笑みが印象的だと思った。
「この子が伊田ちゃんね!やなぎんやるじゃんか、俺を差し置いてこんな良さそうな子と一緒に住むなんて、隅に置けねえなあお前」
 ふはは、と笑いながら喋る直也くんをみて、恐い人ではなさそうだと思ってほっとした。柳の友人なら悪い人でもなさそうだしと考えながら部屋に足を踏み入れるとき、いいなあ俺も女の子家に欲しいわ、やあらかあくてふあっとしてほふって感じのさあ、と言いながら大げさに床に倒れ込む直也くんを見て、私は思わず笑ってしまった。
「伊田が愛想笑いしてるだろ、もっと初対面の人の前で落ち着いておれんのかお前は」
「えーいいじゃん親友のやなぎんの家なんだからさあ好きに喋らせろよお」
「全然気にしないでください、おもしろい人なんですね」
「伊田、こいつあんまり褒めると調子乗るからやめといた方がいいよ」
 直也くんがにんまりと笑いながら、へえ、俺面白いって、なあ、やなぎん、と言いながら柳の服の裾を引っ張るので、ふたりとも仲がよくって羨ましいなあと思いながら笑った。柳はきわめて穏やかで優しいあきれ顔で、しょうがねえ奴だな、と笑いながら言った。私は柳の、困ったときやあきれたときの下がり眉が、なんだかとても好きだと思った。柳、あんまん冷めちゃうよ、いまお茶出すから食べて待ってて、と言いながらキッチンに向かう私の後ろから、柳のありがとうという声に続いて、ひゅーうと乾いた口笛で直也くんが茶化したのが聞こえた。

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