千分の一
一億人の識者が暮らす島。世界の中心で俯く男女。燦々と照りつく陽光はオゾンに遮られない。
「地球の未来の為に」
非情な決断は実行に移される。
地球国代表のシシは、青い地球儀の形をしたボタンをそっと押した。
千億人に膨れ上がった人類。氷の溶けた海水。狭くなった土地。薄い酸素。枯れ果てた植物。絶えていった動物たち。
崩壊の一歩手前に差し迫った地球で、千分の一計画が実行に移される。
一億人の識者は、未来を想って一斉に涙を流した。
島の外にいる九百九十九億人の人々は異変に気が付かない。一億人の識者による管理が終わりを告げても、彼らは普段通りも生活を続けた。自分の未来を憂う者。自分の現状に不平を唱える者。笑う者。泣く者。九百九十九億通りの人生。
「地球の未来の為に」
シシは静かにボタンを離した。
千億人に膨れ上がった人類。
一億人に減らされた識者。
とある島の未来を憂う者たちは、静かに目を瞑る。
千分の一の人生は、今、終焉を迎えた。
地球に残された叡智は無い。
荒廃した世界は、残された彼らの日常だ。
識者のいなくなった世界。管理者のいなくなった人類。
九百九十九億人の新たな人生が、ここから一歩一歩、前に進んでいくのだった。
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