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誰がどう見ても歯並びが悪い私。34歳で矯正を始めた理由

誰がどう見ても歯並びが悪い私。笑うたびに口元が気になり、かといって口を閉じても口ゴボ(口元がもこっと出っ張る)が気になる。
鏡を見たくない。写真を撮るときは、無意識に口元を隠していた。

10代や20代のうちに矯正を考えたこともあったが、費用などを理由に先延ばしに……。気づけば34歳。
もう遅いかなと思いつつも、やっぱり何も気にせず、大きな口を開けて笑いたいので歯の矯正を始めることにした。


コンプレックスとの長い付き合い

私は上の前歯の隣の歯(側切歯そくせっしというらしい)が後ろに引っ込んでいる。

前歯の隣の歯「側切歯(そくせっし)」

歯の大きさや本数に対して顎が小さかったようで、乳歯から永久歯に生えかわるタイミングで側切歯がなかなか生えてこなかった。奥歯が生えかわってから、ようやく側切歯が生えてきた。しかし、十分なスペースがなかったため、前歯の隣ではなく後ろに生えてしまったようだ。

私は側切歯の半分が前歯(中切歯)に隠れている。そのせいで、出っ歯ではないのだが、出っ歯だと思われることが多い。

たとえば中学生のとき、友人と歩いていると、すれ違った先輩から「○○(友人の名前)、出っ歯の子と仲いいんだー」と声をかけられてとてもショックだったのを覚えている。
その言葉を聞いた瞬間は笑ってごまかしたけれど、内心では顔から火が出るような恥ずかしさと悔しさでいっぱいだった。

私は出っ歯じゃない。でも、隣の歯が隠れているから前歯が強調されて見えてしまう。この歯並びが嫌だ。口を開けたくない。誰かに歯のことに触れられるたび、コンプレックスが膨らんでいった。

歯の矯正には興味があった。ただ、私は5人きょうだいの長女。大学の受験費用や学費のことで一年以上親と揉めるくらい、お金に余裕のない家庭で育った。(結局、奨学金を借りて国立大学に進学した)
「歯の矯正がしたい」なんて、とても言えるような環境ではなかった。

社会人になってからは仕事やプライベートで笑顔を見せることが必要な機会が増えた。でも、口元が気になって自然に笑えない。
それどころか、「私の笑顔って、相手にどう見えているんだろう」と心配になることが増えた。

20代半ばには奨学金を完済し、歯の矯正ができるくらいのお金の余裕ができた。でも、歯を抜くのが怖かったこと、営業職だったので口の中の痛みを抱えながら喋るのが嫌だったことから、なかなか挑戦できずにいた。
「みんな自分の顔に満足しているわけじゃない」。そう、自分に言い聞かせてしまった。

コンプレックスとの付き合いは、気づけば私の生活にすっかり溶け込んでいた。

20代の私。写真を撮るときは犬歯(糸切り歯)まで見せるようにしていた

堂々と笑いたい。歯の矯正を始める決意

学生時代は歯並びへのコンプレックスはあったものの、それ以上に目のコンプレックスが強かった。だから目立つメイクやファッションで自分を飾ることで、歯並び含む顔面コンプレックスを隠しているつもりだった。

ただ、年齢を重ねるにつれて、少しずつ価値観が変わってきた。社会人になってさまざまな人と話す機会が増える中で、「口元って意外と人の印象に大きく影響するんだな」と気づくようになったのだ。
そのうち私自身の口元の印象が気になるようになり、歯の矯正をしたい気持ちが強くなっていった。

また、年齢とともに「健康」への意識も高まってきた。美しい歯並びは見た目だけの問題ではなく、噛み合わせや歯の寿命にも影響するらしい。
どの歯医者に行っても高確率で矯正の話をされる私は、心のどこかで「このままでいいのかな」と感じるようになっていった。

ちなみに、歯の矯正を始めようとした直接のきっかけは、会社を辞めてフリーランスになったことだった。口の中の痛みを抱えながら営業する必要がなくなったこと、堂々と顔を出して活動する選択肢を作りたいことから、きれいな歯並びにしようと決意した。
これからは自分の見た目に自信を持ち、仕事やプライベートでポジティブに向き合いたいと思ったのだ。

矯正を始めることへの不安や抵抗感はあったが、それでも「これからの人生を変えられるなら」と一歩を踏み出すことにしたのだった。

矯正開始。抜歯で貧血、口内環境はズタボロ

いくつかの歯科医院に話を聞きに行って、比較検討した。最終的に、口コミが良く、歯科医師の説明や対応が丁寧で、ベテランの歯科衛生士が多いところに決めた。

事前に歯の矯正をした人たちの体験談を読んでいたので、「歯の動き始めは痛くてなかなか噛めない。食事がつらい」ことは知っていた。しかし、それ以外の大変さについてはまったく理解していなかった。

一つ目の試練は、抜歯だった。麻酔のおかげで抜歯自体の痛みはなかったものの、貧血になってしまったのだ。
歯を抜いたあと座って止血していたのだが、やがて視界が真っ青に。すぐに貧血だと気づいたが、近くに誰もいなかったので椅子を叩いて知らせた。
駆け寄った医師は慣れた様子で椅子を倒し、酸素を吸入。その日はしばらく待合室で休ませてもらってから帰宅した。

1本目の抜歯で貧血になったので、ふと「これ、本当に乗り越えられるのかな」と心が折れそうになった。

私は普段から貧血気味で、健康診断の血液検査でも気分が悪くなることがある。献血して気を失ったこともある。だから「抜歯で貧血になるかもしれない」と予測できたはずなのだが、抜歯で貧血になる体験談がなかったので頭から抜け落ちていた。
普段から貧血気味の人は、抜歯の前に色々と対策しておいた方が良いと思う。

すべての抜歯が終わり、矯正器具を装着したときに、また新たな試練が待っていた。歯の表面に装置が取り付けられてワイヤーで締める感覚は、初めての体験だった。
最初は軽い圧迫感だったが、数時間後にはズキズキと痛み始め、硬いものを噛むなんて考えられない状態に。柔らかいものを食べながらなんとか乗り切った。

さらに厄介だったのが、口内環境の乱れだった。ワイヤーが口の内側に擦れて、口内炎ができやすくなったのだ。口の中は傷だらけ、口内炎だらけ。
しかも、ワイヤーを入れた直後に下の子の付き添い入院が始まった。下の子の看病をしながら、自分の体調管理もしなければならない。とにかく痛みを我慢する毎日だった。

この痛みは未来の笑顔のため。自分に言い聞かせて、一つ一つのステップを乗り越えていった。抜歯と口内炎は大変だったけれど、「笑顔に自信を持てる自分に変わりたいんだ」という決意が揺るぎないものになっていくのを感じた。

変わるのは、歯並びだけじゃない。

歯の矯正を始めてから半年が経った。今は、側切歯を前歯の隣に並べるためのスペースを作っている途中だ。

歯の矯正をする直接の目的は「きれいな歯並びのため」だが、それだけではないことに気づき始めている。この半年間、歯並びを整えるプロセスを通じて、自分自身の心や生活習慣にも少しずつ変化が現れているのだ。

まず、歯磨きや口内ケアの重要性を以前よりも強く意識するようになった。
矯正器具が付いていると食べ物が引っかかりやすくなるため、食事のたびに丁寧な歯磨きが欠かせない。最初は「面倒だな」と思っていたが、次第にこれが日課になり、今では口の中が清潔であることが心地よく感じられるようになった。
ケアの時間が増えた分、自分の体に対して以前より丁寧に向き合う気持ちも芽生えてきた。

また、歯並びを整えることで心の持ち方も変わりつつある。少しずつ歯が動いていることがわかるたびに、きれいな歯並びで人前に立つ自分を想像してしまう。これまでコンプレックスとして隠してきた笑顔が、むしろ自分の魅力の一部になるかもしれないと期待している。

歯が動き終わり、ワイヤーが外れる日が待ち遠しい。

歯の矯正は10代や20代の若い頃にやるイメージがあったので、34歳から始めてよいものか悩んでいた。でも、始めて良かったと思っている。
いい歯のために、今からでも遅くない。笑顔に自信を持てる未来を手に入れるため、小さな一歩を踏み出す勇気が大切だ。

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