【9月号】スノードーム最終話

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そうして私は我に帰った。日記の中にいたルイ。さっきまで夢で会っていたルイは今どこに。
近づくサイレンの音につられてマンション8階から外の景色を一瞥すると、線路が大変なことになっていた。赤い車、白い車、白黒の車。どれも赤いサイレンを光らせていて、ただ事じゃない雰囲気を感じさせた。午前7時40分。ちょうど通学の時間帯、都市方面の電車。これってもしかしてルイが乗っている電車……?嫌な予感がした。とても嫌な予感がした。違うならそれに越したことはないけれど。
あのときのような後悔は繰り返せない。
あのときのような勇気がいま私を救う。思い立ったら、即行動。
私はもう一度ルイに会わなければいけない。ルイに伝えなきゃいけないことがある。伝えるまでは、絶対に終われない。

自分でもおかしいと思った。でも勝手に手足が動いていて、気がつくと上着を着て外に飛び出そうとしていた。そのとき、棚に足を思い切りぶつけた。痛い。その瞬間、飾ってあったスノードームが落ちて、見事に割れた。
「あっ……!」
大事な美術部の思い出が。花が、小鳥が、溢れでる。ガラスが砕け散っている。
綺麗で完璧なスノードームだった……。

♡♡♡
体に響いたものすごい振動と、何かが擦れるような音、奇声。それで私は過去の回想から覚めた。
なにこれ、死ぬ……!
そしてすぐに理解した。電車の事故……。車両が尋常じゃない角度に傾いていて止まっているのがわかった。
座席はざわめき恐怖に震えるような声も聞こえるが、数秒もすればパニックは収まった。みんなが誰かの指示を待っている。だんだんと会社や家族に電話をかける声も聞こえてきた。炎上はしていないようだが、隣の3号車は既に横転しかけていた。入学して最初の日なのに遅刻確定。そんなことじゃない、私に席を譲って 3号車に行ったのは私の大切なルイくんだ!私は考えるより先にルイくんに会いたいと思った。
車両を移動しようとすると「やめなさい」「勝手に動くんじゃない」と大人たちの厳しい声が降ってきた。安全のためだからしょうがないのかもしれない。私は諦めて座っていた席、ルイくんが譲ってくれた席に戻った。その場所から出られるまでの数時間は永遠のように長く感じた。

この事故で怪我人はたくさん出たけれど、幸い私もルイくんも無事だった。明日からも私は、ルイくんに会える。
ただあの一瞬、私は死を覚悟していた。大切な人の死も頭を過った。
少し前まで耽っていた中学生時代の記憶はまるで走馬灯のようで、この回想が人生の最期にふさわしいような気すらした。

もしルイくんが無事じゃなかったら、私は一生後悔したと思う。事故の直後会いに行くべきだったって。
でももしルイくんが、あるいは私があの時で最期を迎えていたとしたら。それでも私は心残りなんてない。中1のあの日、私はルイくんに、ちゃんと自分の想いを伝えられたから。
それにその朝、私はルイくんと再会して少し話すことができた。普段は意識していないけど、毎日が最高の一日なのだ。

♢♡

命は脆く儚い。ガラスでできたスノードームのように、思いもよらないタイミングで、ちょっとしたきっかけでパリンと砕け散ってしまう。
急にこの日常が終わったとしても、「幸せだった」と言えるように、後悔のないように、生きていかないと。

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