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月明かりて白き夜

『結婚しよ?』
ある朝の事だった
退屈な授業凌ぎに歌っていると隣で笑う君がいた
何故か一緒に歌った後に言われたんだっけ…
少年は幻聴を覚えた
いつも明るい太陽のようなその声も
今となっては思い出せない

(白昼の月を君は見た事があるだろうか
太陽は沈んだ
終わりの来ない白夜を前に少年は淡く輝く)

『死にたい』
ある日、太陽はそう告げた
皆々まで熱き暴挙に太陽は耐えかねていた
太陽は私をどう見ていたのだろうか
私は嬉しかった
私にだけ悩みを告げてくれた事を
どうにかしたいと思い告げるその手前
私は思い止まった

私も太陽だったのだ
暴虐無比に灼く太陽
私が言える資格はないのだと
凍える太陽の目の前で
私は冷えゆく月となった

冷えゆく月の中で
いよいよ灼かれる時が来た
贖罪にもならぬ贖罪とその身で受けて
緋の痛みを知った
変わりゆく私を気丈にも太陽は支えてくれた
その暖かさが眩しくて
目を灼かれたように
いつしか顔も見れなくなった

遠足の帰り道
バスで横に倒れ込む君
何気なく頭を撫でながら窓の外の景色を眺める
柔らかな髪に包まれて
至福の一時は確かにそこに存在していたはずなのに
少年は幻覚を覚える

(ありし日は少年にとってあり得もしない日々だった
その幸福が存在していたかどうかすら時によって作り変えられてしまうのだろう)

やがては別れる
入学式での覚悟がやはり
卒業式で果たされる
あの日の想いと告白に応えられずに
やるせなさや不甲斐なさを感じながらも
少年は太陽と決別した
己の陽を忘れるように
月は東に日は西に
太陽の幸せを願い月は静かに沈みゆく

あれから幾年経ったのだろう
少年は今も淡く輝く
燃え滓の己の陽では淡い所か消えるのに
すれ違う太陽の光も受けず
ただ淡く輝けるのだ
暴虐無比な轟々の緋も 
燦々と輝く優しき緋でもない
粛々と反射するのみの月なのに
君の温かなあの日を想い
例え幻でも輝けるのだと私は思う

月明かりて白き夜
少年は独白を終え静かに沈む
あの娘に感謝と祝福を終え
太陽の明ける日は近い


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