夜勤で知った、始発電車のこと
始発電車を待つ
駅のホームの風景。
目を赤くしていたり、あくびをしたり、
眠そうな様子で佇む人がぽつぽつと。
社会人になる前の私であれば、そんな駅での様子は何でもない風景の一つだったと思う。
そして働いてから、もし夜勤の仕事をしてなければ、きっと「早朝はみんな眠いよね」と思っていたんじゃないだろうか。
もちろん、早起きで眠い人もたくさんいて不思議はないのだけれど。だって乗り込む電車は始発電車だし。
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私は新入社員から7年とちょっとの間、チェーン居酒屋の社員として働いていた。お店の営業時間は夕方から夜が明ける頃まで。昼夜が逆転して始終暗い世界にいるから、もやしになったような気分になったりもした。ビタミンDは日に当たることで生成されるというから、あの時代の私の体は一体どうなっていたのか疑問に思う。「新しい生活様式」が叫ばれる今、現役社員のこの形態は変化しているみたいだ。
当時、お客さんは明け方に近づく4時を回った頃にやって来ることもあった。他のお店が閉まって、始発が出るまでの間に、一杯やりたい人たちだ。
私はそんなお客さんを迎えるのが、好きな方だった。酔い潰れている場合をのぞいて、彼らは大抵、機嫌がよかった。そして飲み日最後の1杯のジョッキを前にしてリラックスし、ささやくように会話している。
私がお客さんを、はいよはいよと迎え入れる傍ら、同じ時間に働く従業員は少しはらはらしていたりする。お客さんによっては、バイト帰りの空腹を満たそうと、数人でやってきてがっつり料理の注文をする。すると、キッチンは急に忙しくなって、てんやわんやするからだ。当然、私も最後の皿洗いだの掃除など一緒になってやるわけで、自分自身も大変になる。
でも、お客さんは皆、食べ物なのか居場所なのか、何かしら求めるものがあってやって来る。会社の方針がどうとかでなく、我々はお店でしかないのだから温かく迎えたい。
少なくとも、表示している営業時間通りには動かなくてはならないのだし。
そんな長い営業時間の日は、従業員が先に帰るのを見送ることが多かった。彼らは始発か、その後の5時台、6時台の電車で帰宅していく。
彼らなくしてお店は成り立たない。
「おつかれさま」と、もっと優しく言えたらと思いつつ、自分自身も疲労で体が重かった。
***
そんな日々を繰り返したら、始発電車に乗る、夜勤帰りの人に気づくようになった。今の世の中の状況だから、飲食店の人は減ったのだと思うけど、違う業種業態でも夜勤を務める人はいるはずだ。
おはよう、そしてもおつかれさまも、朝の電車はどちらもある。私の場合、どちらの立場でも結局眠いのだけれど。
pen's h.
203号 あおい
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