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特許事務所10年で私のした仕事の種類及びそのおもしろさ

(本記事は、2002年2月に書いた文章です。特許事務所内の人のために書いたものなので、わかりにくいところがあると思います。あれから19年も過ぎました。この後に経験したことは、別記事に書こうと思います。)

 以下の文章は、Yさんからの「特許事務所ではどんな種類の仕事があるんですか?」という質問に対して口で答えたことを文章にしてみたものです。また、新しく入ってきた人には参考になることもあるのではと思って書きました。内容自体は一気に書いた雑感想文なので、意味不明なところもあるとは思いますが、その点はお許しを。
 私が経験したことのない仕事をしている人もいるし、また各仕事に対する各人の感じ方も全く違うと思います。そういう意味で、他の人にも自分の仕事の紹介をしてもらえたらな、と思います。

1.日本関係
(1)特許明細書作成→出願
 全体の7割ほどの時間を費やしている仕事です。一から自分で作文していき新しい世界を作っていけるという点で大変楽しい仕事です。
(2)中間処理
 それほどはたくさんやっていません。しかし、そろそろ拒絶理由通知の山が津波のよう襲いかかってくるはずです。不十分な明細書を書いたつけは全て自分に回ってきます。又は他人が担当すると自分の書いた変な明細書の実態を知られてしまいます。審査請求期間が3年になると、すぐに結果が担当者にも知られてしまうので、これからは怖いですね。
 外国から入ってきた中間は現地代理人への報告・検討があるので、難度が一気に急上昇しますね。誤訳や審査官の誤解が積み重なった案件で、どのように現地代理人に報告すれば納得してもらえるのか全く分からずに途方にくれることがあります。つい、上手に「のむ(間でごまかしてしまう)」行為をする誘惑にかられるが、・・・・・それは実際はできないし。・・・反対のケースで現地代理人はきちんとやっているのかなあ?
 ①意見書作成
 審査官相手に理屈をかます訳ですが、私はあまり得意ではないなと感じています。というより、自分より得意な人がいるなと感じています。私は、最低の論理を展開すれば、それで十分であり余計なことを言っても無駄であると感じているので、しつこい論証ができないのです(弁理士試験はそれでよかったはず)。しかし、担当者及び審査官がそうでないならば、そんなことは言っていられないので、何とかしなければいけません。
 日本電産の担当者は、ほとんど補正をせずに意見書一本でいくそうです。その意見書も特に詳細に議論を重ね、時には明細書より長くなることもある(これは大げさか・・)そうです。こんなクライエントもいるので・・・・
 アメリカ出願の中間をしていると、論証能力は明らかに落ちてしまいます。理屈を言わなくても特許されてしまうからです。
 ②補正書作成
 補正書作成の場合に重要なのは、
 a)新規事項追加違反の見極め、及び
 b)最初の拒絶理由通知時においての今後の予定(最後の拒絶理由通知又は拒絶査定が出た場合の減縮予定)の決定だと思っています。
 ③面接審査
 Oさんにお供して、審査と審判の面接審査に参加したことがあります。これのよいところは、審査官の程度(どの程度切れるか、どの程度その分野に知識があるか)を知ることができることです。いったん、それを知ってしまえば、意見書や補正書を作成するときも相手の程度に合わせて作成することができるので、作業が容易になります。
(3)異議申立
 E社が1度だけ他社から異議申立を受けました。本当はもっといっぱい異議申立を受けていないと恥ずかしいのですが(広い権利を取っていないことを意味するから)。
(4)翻訳(英→日)
 日本出願の仕事がないときは、翻訳の仕事もしました。翻訳は、単語だけを調べておき、後は英文を読みながら日本語を録音していく方式を採用しました。その録音テープは事務の人がワープロ起こしをしてくれる訳です。この方式の良いところは自分で指を動かさなくていいので楽なことです。
 今でも、下調べをしてくれる人がいて、ワープロを打ってくれる人がいて、さらに最後に段落落ちがないかチェックしてくれる人がいたら、効率よく仕事できるだろうなと思っています。あまり贅沢をいうと顰蹙をかいそうですが、私を翻訳マシンとしてフルに発揮させてくれるのはそういう環境です。
(5)鑑定
 経験はありません。

2.外国関係
(1)外国出願
 ①出願選定のヘルプ
 これが成功したのはE社です。半年毎に国内出願のリスト及び抄録を送付して、E社が外国出願を選定する作業を大幅に楽にしてあげました。この結果、こちらも翻訳発注・エディットを計画的にできるようになりました。ただし、この工程はこちらに都合のいい面もあるので、その分納期を守ることと良い仕事をすることは守らなければいけないと思っています。
 ②併合作業
 経費節約のため、複数の日本国内出願を1件にまとめて外国出願することがあります。全然違う発明でも一度に審査してもらえて成功したときもあれば、審査が複雑になって大失敗したときもあります。
 ③翻訳発注
 その技術に適した翻訳者を選定して仕事を出します。翻訳者に対する評価は大変厳しくしています。良い人は絶賛する代わり、悪い人は二度と使わないでくれとはっきり言います。
 ④翻訳(日→英)
 この翻訳は、自分が書いた明細書が対象になっています。したがって、内容的には自分が一番熟知しているはず。それに英語は今まである蓄積分を参照すれば、どのような表現を使えばいいかはすぐに分かる。以上より、この翻訳は比較的簡単なはずであり、また特に、件数が少なくて内容重視・高付価値化を求めるクライエントの場合は喜ばれるかもしれません。
 ただし、翻訳の価値を高く評価してもらえず、又は日本出願を大量に処理しておくことが結局は利益につながるのなら、翻訳は外部に任せておいた方がいいと思います。
 それにも関わらず、これからは、ある程度は自分の仕事の中に翻訳仕事を取り入れておこうと考えています。
 私の目的は歌って踊れる・・・ではなく、日本語でも英語でも明細書を自在に書ける明細書ライターとなることです。翻訳を続けながら英語能力を鍛えつつ、いきなり英語で明細書を書いてくれと依頼されてもすぐに書き出すことができるようになりたい。
(2)外国中間
 いろんな現地代理人がいます。懇切丁寧なところから、あっさりしたところから。気配りのないところを見ると、自分が外国の事務所からはそのように見られないように気を付けねばという気持ちになります。
 入所当初は、OAも全て日本語訳していました。しかし、現在は簡単な要約を日本語で添付しているだけです。現地代理人のコメント翻訳の上に、新樹コメントを掲載して、新樹コメントで全体の流れを方向付けしています。したがって、現地代理人のコメントを積極的に批判することもあります。
(3)鑑定
 鑑定そのものをする訳ではなく、クライエントと現地代理人との間の連絡役です。これが一番おもしろい。クライエントの意向を鑑定に適した形で引き出し、それを現地代理人にぶつけて最も望ましい形での鑑定結果を取る。このプロセスが最も知恵を絞って努力する作業です。成功したときは、現地代理人も完全に操作したという満足感にひたれます。ただし、失敗したときの責任は事務所全体が背負う巨大なものとなるので、とても一人だけでやることはできません。多くの人にチェックを入れてもらいながら慎重に進めています。

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