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POOLのちょっとだけウンチク 第6回 Betty Everett『Sugar』 selected by 内田怜央(Kroi)

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

今回のアーティストはKroiの内田怜央さん。内田怜央さんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”はBetty Everettの『Sugar』。

ベティ・エヴェレットは1939年生まれ、現在公開中の『リスペクト』でも話題のアレサ・フランクリンが1942年生まれだから、アレサより少し年上のサザン・ソウルの黒人女性シンガーだ。1964年にリリースした『シュープ・シュープ・ソング』が大ヒットとなり、一躍スターの仲間入りを果たした。

エヴェレットが所属していたのはシカゴの“ヴィー・ジェイ・レコード”というレーベルだ。“ヴィー・ジェイ”は50年代の黒人のブルース・シンガー――ジミー・リードやメンフィス・スリム、ジョン・リー・フッカーらを抱えた人気レーベルのひとつだった。

60年代になると、ジェリー・バトラーやベティ・エヴェレットといったソウル・シンガーがチャートを賑わすことになる。

アーティストとA&R

“ヴィー・ジェイ”といえば、ビートルズが最初に契約したアメリカのレコード会社としても有名だ。ビートルズが全米に進出しようとしていた当初、キャピタル・レコードはビートルズに全く興味を持っていなかった。そこでヴィー・ジェイ・レコードがビートルズのライセンスの権利を獲得したのだ。

1964年にビートルズ旋風が巻き起こると、それに乗ってヴィー・ジェイも大躍進を遂げる。ビートルズと同時期には白人のコーラスグループ、フォー・シーズンズをヒットさせ、その後もジミ・ヘンドリクスやビリー・プレストンを世に送り出した。そのヴィー・ジェイの躍進を担ったのはエワート・アブナーという人物である。

アーティストのヒットの陰に必ずは優秀なA&Rが必ず存在する。A&Rとは「アーティスト&レパートリー」の略で、アーティストの資質を引き出し、どういった曲をどんな順番で発売し、どのようなプロモーションをするかといった戦略を組み立てる役目で、いわば、アーティストを売り出す司令塔である。

ヴィー・ジェイ・レコードは1953年インディアナ州でヴィヴィアン・カーターとジェームス・C・ブラッケンが設立したレーベルだが、2年後アブナーがA&Rとしてやってきてから、躍進が始まった。

そして、1961年にヴィー・ジェイ・レコードの社長に就任したアブナーはビートルズのアメリカでのレコーディング・ディレクターも務め、アメリカでの成功を後押しした。

しかし、その後キャピタル・レコードが大金をはたいてビートルズの権利を奪い返してしまう。アブナーがその後もビートルズのレコードを出し続けていたことから、キャピタルと法廷紛争になり、ヴィー・ジェイ・レコードの経営が悪化。アブナーはヴィー・ジェイを離れることになってしまった。

職を失ったアブナーを、モータウン・レコードの社長ベリー・ゴーディがヘッドハンティングする。するとアブナーのA&Rの能力はここでも存分に発揮した。

当時のモータウンと言えば、自動車を組み立てるように、シンガー、ソングライター、アレンジャー、ダンス、ヴィジュアルをそれぞれ専門分野に分け、ヒット曲を量産していた。

ベリー・ゴーディは「ダンスナンバーこそがモータウンだ」というポリシーを持っていた。だが、アブナーはマーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダーといった自ら曲を創り、哲学的な歌詞を書くアーティストを世に送り出した。彼らは、いわばモータウンのポリシーからは逸脱したアーティストだった。

70年代に入ると、公民権運動が盛んになり、ベトナム戦争が泥沼化していた。「時代」が彼らの創る音楽を求めている、A&Rのアブナー直感していたのだ。ベリー・ゴーディの大反対を押し切ってヒットしたマーヴィン・ゲイの『What‘sGoing On』はその代表的な楽曲である。

アブナーはほどなくしてモータウンを離れるが、それからスティーヴィー・ワンダーのマネージャーを務め、74歳で亡くなるまで、ベリー・ゴーディとモータウンには寄り添っていたという。

その名が世に出ることほとんどないが、ヒット曲の裏には優れたA&Rの存在がある。クレジットでA&Rの名前を探してみるのも面白い。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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