POOLのちょっとだけウンチク 第5回 Joan Of Arc『The Infinite Blessed Yes』 selected by 飯田瑞規(cinema staff)
今回のアーティストはcinema staffの飯田瑞規さん。飯田さんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”はJoan Of Arcのアルバム『So Much Staying Alive and Lovelessness』の2曲目の「The Infinite Blessed Yes」。
Joan Of Arc?これまた知らないバンドだ。知らないってことは実に楽しい。ちょっとJoan Of Arcについて調べてみよう。Joan Of Arcは1996年シカゴで、エモの伝説“キャップン・ジャズ”を母体とし、ティム&マイクのキンセラ兄弟を中心として始まったユニットだそうだ。
「エモ」とはロックの形態の一種で、内向的、心情を吐露するような歌詞と切なく美しい、叙情的であり時に激しい、そんなジャンルのことをいう。90年代半ばから、「グランジ」に対抗するように、この「エモ」というジャンルが流行り始めた。最近よく「エモい」という言葉が使われるが、その語源は音楽ジャンルの「エモ」からきているのだ。
さて、このJoan Of Arcは、飯田さんによると、このユニットを本家として、様々なユニットに枝分かれしている。Owls、アメリカン・フットボール、メイク・ビリーヴ、Owen、ゴースツ&ウオッカ、など。この沼にはまると、USインディーシーンというものを知ることになるらしい。
ヘタウマと言おうか、サウンドのヨレ具合が、うまいのか、下手なのかわからない。しかし、恐らくはスタジオで“せーの”で一発録りしてるように思われる。よく聴くと一人一人のスキルが高いことがわかる。ヨレ感は狙いなのだろう、とにかく心地よくて何度も聴きたくなることは確かだ。
オープン・チューニング
今回興味深かったのは、 cinema staffがJoan Of Arcにならって、ギターのオープン・チューニングを使ってることだ。あらかじめ、ギターをそれぞれの曲で独自のチューニングをしておくことをオープン・チューニングという。
レギュラー・チューニングでは、左手でコードを押さえなければならないが、オープン・チューニングはコードを押さえなくても弾くだけでコードが鳴るようにチューニングしておく。
例えば、オープンGにチューニングしておけば、左手はオープンにしたままで、“ジャーン”と弾くだけでGコードが鳴る。有名なのはストーンズのキース・リチャードのオープンGで、これで『BrownSugar』や『JumpingJackFlash』はじめ多くの名曲が生まれた。
キースがオープン・コードに目覚めたのは、サイケデリック路線を見直し、自分のルーツミュージックであるブルースの研究した1960年代半ば過ぎてからである。キースは自分のブルースのレコード・コレクションを聴き漁り、1930年代から50年代のブルースマンたちのギター研究に没頭した。そして、当時のブルースマンのギター奏法の特徴であったオープン・チューニングに辿り着いた。
しかし、YOUTUBEもない当時は、どうやって弾くのかも、わからず試行錯誤していた。そこへアルバム『レット・イット・ブリード』のために参加するためにライ・クーダーがやってきた。ライ・クーダーはLAのギタリストでオープンチューニングを用いたスライド・ギターの名手である。
スタジオでオープンチューングを目の当たりにして、どうやらキースはオープン・コードを完全に自分のものにしてしまったのだ。もっとも、ライ・クーダーは「キースにオープン・チューニングを盗まれた」と主張しているのだが、、。
ここでわかるのは、かつてブルースマンたちがオープン・チューニングを使っていたという事実である。ブルースと言えば、シカゴだ。シカゴで生まれ育ったJoan Of Arcがオープン・チューニングを使っているのは、自然のことだったのだろう。
それを聴いたシカゴとは縁もゆかりもないcinema staffがオープン・チューニングのギター奏法を使っている。実に深くて興味深い。そして、やはり、知らないことを知るって実に楽しい。
(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)
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