POOLのちょっとだけウンチク 第11回 ナット・キング・コール『The Christmas Song』 selected by 高橋海(LUCKY TAPES)
POOLの今回のお客様はLUCKY TAPESの三船雅也さん。三船さんの“とっておきのアナログ”は『The Christmas Song』、ジョン・レジェンドとの時を超えたデュエット・ソングのヴァージョンだ。
初めてナット・キング・コールがこのクリスマス・ソングをレコーディングしたのは、なんと75年前の話。75周年を記念し制作されたのがナット・キング・コールの新しいアルバムである。
タイトルが面白い。『A Sentimental Christmas with Nat King Cole and Friends: Cole Classics Reimagined』。“リイマジンド”とは聞きなれない言葉だが、「再想像されたコールのクラシック」とでも言うのだろうか。それにしても“リイマジン”とはうまい表現だ。ナット・キング・コールの美しいヴォーカルに、新しいアレンジと現代のアーティストたちを織り交ぜて“リイマジン”したわけだ。
歴史に残るクリスマス・ソングの誕生
ナット・キング・コールの『The Christmas Song』のソング・ライティングには二人の名前がクレジットされている。作詞がロバート・ウェルズ(通称ボブ・ウェルズ)と作曲がメル・トーメ。
メル・トーメはフランク・シナトラと並ぶジャズの巨人として知られているが、実はこの時若干19歳に過ぎなかった(!)。ウェルズにしても22歳の若さである。この名曲がこんなにも若い二人に生み出されていたとは、、、。
曲が生み出されたのは1945年、焼けつくように暑い、ある夏の日のことだった。メル・トーメがボブの家を訪れると、ボブのピアノの上にノートがあって、たった4行の走り書きがあった。『Chestnuts roasting、Jack Frost nipping、Yuletide carols、Folks dressed up like Eskimos』。
「なんだい、これはずいぶん季節外れな言葉だな」メルがそういうと、ボブはこう答えた。「冬のことを考えれば少しは涼しくなるだろう」。「なるほど、じゃあ、冬の歌を作ってみよう」と、メルはピアノに座り、この4行をもとにメロディを奏で、ボブはその場で詩を書き始めた。その40分後、歴史に残るクリスマス・ソングが誕生したのである。
生き続ける『The Christmas Song』
しかし、なぜこの曲をナット・キング・コールが歌うことになったのか。メル・トーメは歌手としても素晴らしい歌声を持っていたのだから、本人が歌ってもよさそうなものだ。
だが、この時の二人は純粋だった。「この歌にぴったりの歌手は誰だろう?」「ナット・キング・コールは?」「そうだ、彼しかいない!」と二人は盛り上がった。その勢いのままハリウッドまで車を飛ばして、ナット・キング・コールのマネージャーに会いに行く。曲を聴かせると、コールのマネージャーはその場でレコーディングを快諾したという。
ナット・キング・コール率いるザ・キング・トリオは翌年、この曲をレコーディングしたが、最初のヴァージョンをコールは気に入らなかった。コールはキャピタル・レコードの反対を押し切って、ストリングスを入れて、2回目のレコーディングを行った。ヒットしたのはこのヴァージョンである。
ナット・キング・コールはよほどこの曲にこだわったのか、計4回もレコーディングを繰り返した。いま私たちが聴きなれているのは1961年に録音されたヴァージョンだ。
メル・トーメ自身も4回もこの曲のセルフ・カヴァーをリリースしている。そして、今年10月には冒頭に記したように、ジョン・レジェンドを新たにヴォーカルに加えたデュエット・ヴァージョンがリリースされた。
曲に命があるとするなら、『The Christmas Song』は相当な長寿ということになる。日本の若きミュージシャンLUCKYTAPESの三船雅也くんがクリスマスに限らず毎日のようにこの曲を聴いているというのだから、もしかしたら不老不死かもしれない。しかも、それが20歳そこそこの二人の遊び心から生まれたというのだから、音楽って本当に面白い。
(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)