POOLのちょっとだけウンチク 第7回 JPEGMAFIA『Jesus Forgive Me, I Am A Thot』 selected by 崎山蒼志
今回のアーティストは19歳の崎山蒼志さん。崎山蒼志さんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”はJPEGMAFIAの『Jesus Forgive Me, I Am A Thot』。
正直驚いた。崎山蒼志の音楽を聴いていて、“とっておき”としてJPEGMAFIAを持ってくるとは想像もつかなかったからだ。
JPEGMAFIAはボルチモア出身の元軍人のラッパーという異色の経歴。彼の音楽をひとつのジャンルに限定するのは極めて難しい。そもそもこれは曲なのだろうか、むしろ音とリリックによる現代アートなのではないか。
かつて1970年代後半、元ロキシー・ミュージックのブラアン・イーノは“アンビエント”という前衛的なサウンドを提示し、当時のマニアックなサウンドを模索する人たちに大きな影響を与えた。対峙する音楽を否定し、新たな音楽の可能性を追求したのだ。
JPEGMAIFIAの音楽は、まさに現代のブライアン・イーノだが、とその特徴は、一貫性がないことだ。サウンドは時にときに攻撃的であり、ときに不穏であり、静寂である。まるでクリストファー・ノーランの映画のように、聴くものを翻弄する。脳が揺さぶられるような気分になる。
しかし、聴くたびに発見がある。それが中毒性なのだろう。これをチョイスした崎山蒼志の脳もまた、今の若い世代に特有の、複雑に入り組んでいるのではないか。
もう一枚の“お宝”、 BlackMidi
崎山さんがもう一枚“お宝”として持ってきたのが、BlackMidiというのもまた興味深い。今年、イギリスではUKロックが復活したと言われいる。
U2のボノの息子イライジャ率いるInhalerのデビューアルバムが全英1位を獲得したのをはじめ、若手のインディ・バンドが音楽シーンで盛り上がりを見せている。
BlackMidiはその注目されるバンドのひとつである。UKとはUnitedKingdomの略称。ではブリティッシュ・ロックとどう違うのか、定かではないが、1970年代後半セックス・ピストルズやクラッシュらパンクバンドが台頭してきて以降、UKロックと呼ぶようになった気がする。
流行は繰り返す
UKロックというと、なぜかパンクやインディーを連想するのはそのためだ。時代は形を少しずつ変えながら、その流行を繰り返す。いまもUKロックに君臨するアーティストと言えば、“モッド・ファーザー”と呼ばれるポール・ウェラーだろう。
“モッズ”は1950年代後半から60年代の中ごろにかけて、イギリスの若者の間に流行った音楽やファッションのことである。髪を短く切って前髪を下したモッズヘアー、細身の三つボタンのスーツ、多数のミラーとヘッドライトで装飾されたスクーター。
彼らはアメリカの黒人音楽、R&B、ソウルミュージックを好んだ。そこから、キンクスやザ・フー、スモール・フェイセズが生まれたのだ。
そのモッズ・ブームに大きな影響を受けたのが、ポール・ウェラーで、モッズ・ブームから10年、彼はザ・ジャムとして華々しくデビューを飾る。モッズ・ブームは再燃し、パンク/ニューウェーブシーンを牽引したのだ。(ちなみに、初期のミスチルにはまるでザ・ジャムのような曲も存在する、、)
その後、ポール・ウェラーはあっさりと人気絶頂のザ・ジャムを解散させ、80年代はスタイル・カウンシルを結成、一転してR&Bを基調としたおしゃれなサウンドに方向転換し、一部のファンを失望させた。
しかし、スタイル・カウンシル解散後の90年代以降ポール・ウェラーは、シンプルで硬派なサウンドに原点回帰する。そして、オアシスやブラーがポールウェラーリスペクトを表明し、改めて再評価を受けることになったのだ。
流行は必ず繰り返す。BlackMidiやJPEGMAFIAら若い世代は、影響を受けた音楽に、自分たちの風味を加えて、新たなクリエイティヴへと変貌させている。そして、また新たなムーヴメントを作り出しているのだ。
ところで、今回崎山蒼志の“とっておき”を聴いて、彼の今発表している音楽はその一部に過ぎないのだ、と感じさせらた。おそらく今後、驚くような音楽を聴かせてくれるに違いない。19歳の今後のクリエイティヴが本当に楽しみだと思った。
(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)
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