Production Note| DJ Shadow MV制作の裏側 Vol.2
こんにちは。WOW PRチームの佐々木です。先日公開されたDJ Shadow「Slingblade」のミュージックビデオの企画・制作・演出をWOWが担当しました。制作裏側の紹介第二弾となる今回は、通常のCGとは一風異なるルックが印象的な本作がなぜこの表現に至ったのかというプロセス&アプローチのお話と、撮影現場で直面したトラブルなどをお話します。前回の記事はコチラから。
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佐々木
今回、CGが一風変わったルックという印象でした。撮影・CGの制作プロセスやアプローチなどが通常と異なるようですが、その辺りのお話を聞かせてもらえますか。
北畠
尺が長いので、データを複雑にすると捌き切れないというのがあって。なるべく人物の動きからCGをジェネレートするプロセスを短くする必要があったんですね。世の中にはそういったジェネレートの方法は沢山あるんですけど、どれも基本的にはセンシング用に機材やスタッフを準備したり、別日で専用のスタジオで撮影したりしなければならないんですね。そうなるとお金もかかるっていうのもそうなんですが、撮影の段取りが複雑になったり収録データが煩雑になってしまうんです。今回、収録時間も尺も長いし、そういう複雑なことをやっていると物理的に時間が足りないのが分かっていたんで、それをショートカットするために、撮影した撮りっぱなしの素材をそのままCGのジェネレートする表現に何とか使えないかという考えでやりました。なので今回はこの作品の制作のスパンに合わせた方法を考えたっていう感じですね。
佐々木
通常CGを扱う撮影だと細かいカメラデータとか計測しますが、そういうプロセスも踏まない手法ということでしょうか?
北畠
帝人さんのFUTURE NAVIGATIONやEmpire of The SunのMVとかもそうですけど、ああいうのは収録データが複雑で、さらに収録後の調整に時間がかかるので、撮りっぱなしの素材をそのまま使うことが基本的に出来ないんです。今回は後処理の部分は自分たちだけでやる必要があったので、後処理に極力時間を割きたくなかったっていうのがありますね。
佐々木
それは7月の提案時から考えていたってことですか?
北畠
そうですそうです。別件との兼ね合いで僕が動けるのが10月以降ということもあって、後ろが詰まるのは案件を受けた段階から分かっていたんで、いつものように時間をかけることは出来なさそうだなっていうのはありました。あとは予算的なことですよね。
佐々木
通常のプロセスをショートカットして実現させたのが今回の表現ということでしょうか。
北畠
そうですね。通常の撮影手法に比べれば精度は圧倒的に低いですし、収録したデータの使い道とかも制約が出るので、通常のプロセスと同じ表現をすることは、そもそも考えてなかったんです。この表現だからこそ生きる表現を作らなくてはいけないというのを頑張ってやったっていう感じですね。どうしてもデータが曖昧になるなら、その曖昧さがうまく機能するような表現を開発を開発していった感じですね。
北畠
このテストムービーは、「こういうテクニックでやります」というDJ Shadowへの説明用に作った動画なんですけど、撮った素材そのままが冒頭のカットなんですが、それをCGソフトに読み込むとその後のカットのような立体にできるわけなんですね。
佐々木
カメラデータとかも計測してない?
北畠
ほとんどしてないです。このフォグの中の人物の動きを撮ったムービーをそのまま素材としてCGソフトに読み込んでいる感じなんですよね。最初の白黒のやつあるじゃないですか。それをCGに読み込ませると、黒いところが出っ張って、白いところはフラットなままみたいな感じになるんですね。
北畠
いわゆるディスプレイスっていうCGソフトではめちゃ普通の機能ですね。で、それが分かりやすいのが、この次の画像ですかね。これ、横から見た時に、この黒いところがちょっと出てきてるじゃないですか。
佐々木
はいはい。
北畠
これは3次元的なデータを計測してるわけじゃなくて、単純に、フォグの中で人が前後してカメラに近寄れば黒くなるし、遠ざかれば白くなるっていう当たり前の現象です(笑)。それをCGソフトに突っ込んでるっていう感じですね。
佐々木
それが「撮影した撮りっぱなしの素材をそのままCGにジェネレートする」ということなんですね。そうなると撮影素材がとても重要になってくると思いますが、現場はどのように進んで行ったのでしょう?
北畠
実際の撮影はスタジオでセットを組んで行いました。テスト撮影時は人物をきれいに見せるよりも、CGの素材として使いやすいライティングで撮ってたんです。ですが、いざ本番でテスト環境に似た状態を再現しようと頑張ったんですが、いろいろ問題があって撮影が終わってCGソフトに読んでみると、まあほぼ使えないという状態になってて・・・
佐々木
ひーーーー(笑)
北畠
で、これはヤバいぞっていうことで、テスト撮影したところと同じ場所で再撮をしました(笑)。
佐々木
それはなかなか痺れますね・・・(笑)。
一同
(笑)
北畠
まあ、本番前からそういった事態は想定されていたので、現場では実写の絵を優先していました。あとは、フォグを濃くたかないと狙ったCG素材が撮れないんですけど、それをやっちゃうと演者がすごく危険だったんですね。セットなんで演者がガラスもたれたりするとガラスごと倒れちゃうんです。というのもあって現場のフォグの濃度を低めにはせざるを得なかった感じでした。
佐々木
フォグの濃淡がCG素材の成否を左右すると考えると、フォグのコントロールや撮影現場が大変そうですね。
北畠
そうですね。実は撮影直前まではフォグをたかずにすりガラスを使うっていう案で進めてたんですよね。そっちの方がコントロールもしやすいですし、演者にもやさしいので。ただ、見てもらうとわかるように人物のディテールが全然出なかったんですよね。
<すりガラスを使用したテスト>
北畠
これでも一番薄いタイプのすりガラスを使ってたんですけどね。事前のテストでカメラマンや照明の方と相談して、これはちょっとやばいぞ、となり、実際にフォグをたくという判断を撮影の数日前ぐらいにした感じですよね。
山本
そうですね。あと、実際スタジオで撮影するにあたって、やはりコスト的に最低限のサイズのセットしか組めないので、その幅でこういう演技をどうやってやるかっていうことも計算がすごい大変でした。
北畠
あとはもう・・・シンプルにやってみないと分からないっていう。今回、コリオグラファーとかも特に入れず、演者の方にアドリブで動いていただく感じだったので、事前に計算ができない部分がかなり多くて。逆に言えばそんな環境の中で演じてくれた演者さんと技術さんたちにはただただ感謝するばかりですね。
佐々木
通常は撮影前にあらかたシミュレーションして、固めた上で現場に挑むと思いますが、撮影が終わるまでずっと未知の状態というのはかなりプレッシャーが高そうな・・・。
北畠
そうですね(笑)。ある程度は事前に決めてましたけど、不確定要素が多いので、どういう切り取り方をするといい感じに見えるかというのはカメラマンの方にその場で考えていただいてました。まあ、僕含めみんな勘でわーっと進めてた感じですね(笑)。
一同
(笑)
・・・
まさに暗中模索、五里霧中・・・(フォグだけに)。新しい表現への挑戦が如何に大変なのか、北畠Dirが予測不可能な要素に悩む姿が目に浮かぶお話でした。次回も引き続き、撮影苦労秘話や今後の展望などをお話します。お楽しみに!
<Interviewing + Writing : PR / Michiru Sasaki>
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