たけのこ婆の涙
生桃
たけのこ婆がそのアトピー女に出会ったのは、ちょうど1年前だった。
アトピー女は、まだ若く未婚の女だった。恥ずかしくないのか、堂々と未婚で子供を産んだ。付き合った男は、妊娠したと伝えるとアトピー女から逃げてしまった。と皆んなに話すのだった。
アトピーの女は堕胎もできたが、子供を産んだ。その子を実の母親に育ててもらい。アトピー女は大学を卒業すると、たけのこ婆の老人施設に就職したのだった。
アトピー女はデイサービスで1年働いたのだが、職員と話しばかりして、仕事をほとんどしなかった。
それで、たけのこ婆の所で修行することになった。しかし、アトピー女は仕事をしない。もう、後がないのだから、真面目に仕事を覚えて一人前になるのが本当だと、たけのこ婆は、本気になった。
毎日、毎日、老人介護の食事や薬や移乗の仕方を教えた。しかしアトピー女は歳の少しでも近い職員と居酒屋に行こうと盛り上がる話をしたり、ギャンブルの話をして、全然、仕事を覚えようとしなかった。
若い男の職員が注意しようと試みるが、ミイラ取りがミイラになるという状態だったのだ。
たけのこ婆は、アトピー女と同じ私服を購入して、若返りをし、アトピー女を食事に誘ってみた。
アトピー女は、なびかなかった。
たけのこ婆に勤務の交代を頼んだり、勝手に休んだりするのだった。
たけのこ婆は最初だけ、アトピー女を自由にして、注意しなかった。
次に頼まれた時に勤務交代を断ると、アトピー女はそれから、たけのこ婆としばらく口を聞かなかった。
相変わらず、アトピー女は給料泥棒状態が続いた。
それから、しばらく、たけのこ婆は、もうアトピー女の事を諦めたのだった。
そのうち、試験があったのだが、アトピー女だけ、勉強もせず、試験会場にも来なかった。
それから、月日が流れ半年が経った頃。アトピー女が介護を辞めると言ったのだ。退職願を出したのだ。
たけのこ婆は、受け取ったが、絶対に辞めささない。そう言って、無視したのだった。
しかし。その日はやってきた。アトピー女が突然、別人の様に真面目に仕事をしたのだった。
今まで、見たこともないオムツ交換や明日の準備までしたのだった。
たけのこ婆は、今まで不満があった。明日の準備をするのよ。そう言って聞かせても絶対にしなかったからだ。
ところが、アトピー女はちゃんと全てをきちんとしたのだ。
ところが、それが最初で最後になってしまった。アトピー女は今日で終わり。もう、退職願いを渡して1ヶ月になるから明日から仕事に来ないと言って帰ってしまったのだ。
たけのこ婆は、胸がポカンと穴が開いてしまった。この子、ちゃんとやれば仕事ができる。
何故?最後だけ?ちゃんと仕事をするの?
そう言ってたけのこ婆は悲しくなって泣いてしまった。
アトピー女の母親は、たけのこ婆より4つ下だと聞いていた。私は、あの子の母親の様なもの、大切に育てたかったのに。私の気持ちがわからない。今まで、我慢をして、育てていたのに。そう言って、次の日から、体が動かなくなってしまった。
アトピー女は、他の職員には、ギャンブルが好きだから、好きなギャンブルを仕事にする。パチンコ店で働く。
自分の働く所では、パチンコを打つ事が出来ないから、友達に出る台を教えて、儲けを半分にすると言って笑って帰った。
たけのこ婆は、悲しい気持ちで、体も重く動けないまま、介護施設に仕事に行くのであった。