立川生桃
墓前にたむける赤いシーグラスを探した
そう
硝子の破片も波の歳月に磨かれた花弁ね
母の遺した難問がそっと解けた気がする
聡明だった母が◎をくれるとは思えない
でも
アタシはアタシのために貴方が好きなの
アタシは貴方のためにも好きでいたいの
『算数のルール。四捨五入って言うの』
ほら
いつも褒められたいアタシが必ずいてね
自慢したいくせに黙ってる貴方がいてね
答えにもなってないかも知れないけどさ
うん
些細な傷を互いに舐めあうじゃなくって
心の触り方がほとんどいっしょなのよね
母は幾何の教授をやってたお利口さん
はい
数え45の星数が母の享年となった年
『その方がなぜ好きなの?愛したの?』
貴方のためにアタシが囁くということは
ええ
貴方がアタシのために撫でるということ
それをいつか亡くし失うことの恐ろしさ
走馬灯をいつか後悔の黒煙が包むのかな
いえ
恐ろしいほどに怖いけどそれと同じほど
幸せが今のアタシと貴方とを生かしてる
母さんアタシ。彼を四捨五入できません
ねっ
4でも5でも。4は4。5は5なんだよ
それに…「愛?」。桁自体全然足りない
(了)