39歳自営業、糖尿病になる #1 初日 | 収監されたブタ
出荷まで
入院までの準備とか、あってよかったもの系は後でまとめるとして、まずはリアルタイムドキュメントに近づけるよう頑張る。
ともあれ10時までに登院せよと指示のもと、屠●場へ向かうトラックに突っ込まれるブタのごとくタクシーに乗って病院へ向かったのだ。
10:00 ~さよならですサンタマリア~
事前準備した誓約書等の書類を確認して病室へ。
この病院、1Fが受付、2Fはようわからん、3Fが食堂と運動スペース、ラウンジ、浴室など。4Fと5Fが病室である。
そして感染症対策とやらで面会はNG、物品の引き渡しはナース経由だそうな。まぁ糖尿病患者は耐性がザルだから可能な限り外部からの接触を避けたいっていう趣旨ってことで一応納得せざるをえない。コロナときたら大したもんだ。
つまりこれで、当面外界との断絶が確定したわけで、ワイフともエレベーターホール前でお別れ。寂しいので啼いておこう。
グララーガァー、グララーガァ。
「仲良いんですね」
ナースに冷笑されて檻(部屋)に案内される。ハーイ。
独居房(個室)にしようかと悩んだけど、どうせ病室に面会来れないしそれなら別にどうでもいいやと判断。2週間程度の予告とはいえ、そこそこの荷物かしら。
10:20 ~ディスプレイ数がライフ総数~
ナースが院内着を持ってきてくれたり、出入り業者が日用品の説明をしてくれるので、その合間にナワバリを整える。
今回のIT系初期装備は以下の通り。
・ノートPC
・拡張ディスプレイ
・iPad Pro
・スマホ、ガラケー
・モバイルルーター
・ケーブル一式(電源タップ/USB-TypeA,C)
・ワイヤレスイヤホンマイク(片耳)
・いいヘッドホン(ATH-M50x)
10:40 ~事情聴取~
ひととおりベッド周りを整えたところで別室に呼ばれる。
日ごろの生活習慣、起きて何してどんなもの食って何時に寝るとか、何が高血糖の原因として考えられるか(自覚しているか)を聞かれるのだが、この別室っていうのがせいぜい6~8畳程度のこぢんまりした処置室で、体感取り調べである。やましいわけではないがやんでいるので仕方ない。
そしてお昼ごはんまでの宿題(?)としてクイズ用紙を渡される。入院までに糖尿病についてどれだけ自分で調べたかを確認する意図だとは思うので即答する。
「ああ。昼までに提出するのはいいが――
別に、今全部書いてしまっても構わんのだろう?」
ボールペン持ってなかったからおとなしく部屋に戻って書くことにする。
そうだよね、分からないよね12の試練とかね。
11:40 ~はじめてのインスリン~
部屋に帰されてからはしばらく自由時間となった。
とりあえず電動ベッドを立てて、痔用の円座クッションを敷き、腰元に枕を挟む。これで尻と腰の耐久力を上げる。
入院にあたって持ち物を相談した友人がnoteを立ち上げていたなぁってのを思い出してこの記録をつけることを思いつき、ざっと書いているうちに部屋のカーテンが空く。「インスリン打ちますよ」
ヘッドホンで音楽を聴いていると外からの呼びかけに気づきにくい(そらそうだ)ので、以後カーテンはちょっと開けておくことにした。どうせそこを通過するのなんて医者か看護師か病人だ。プライバシーなんて肖像権とともに十数年前に放棄しているこの身に見られて困る部分も恥ずかしい部分も文字通り無い。
カッコいいように書いたけど別に何もカッコよくはない。
喋るのも書くのも慣れであり、繰り返し場数を積むことでマシになるでしょ。
さても先ほどの事情聴取を受けた処置室にて血糖値検査とインスリン注射を行う。
血糖値検査で使ったレーザーポインターみたいな器具は指先に当てるとチョンと指先に針が刺さる仕組みらしい。滲んだ血の玉を器具の反対側に飛び出してるリトマス試験紙みたいのに吸わせると本体の画面に数字が出てきた。
いやちょっと待て。
400で入院してんだぞ。まだ書いてないけど入院するまで毎日1時間エアロバイク漕いで野菜も山盛り食べてたんだけど効果早すぎじゃないの?
つかもう退院できるじゃろ。おうちに帰してよ。ねぇ。
顔にモロに出ていたんだろう。
「血糖値は空腹時とかでけっこう変わりますからね」
グララーガァー、グララーガァー・・・
インスリンは腹部に注射とのことで、院内着をめくってブスリ。腹の毛剃っておけばよかったかなぁとか、もうちょっと下ならまだキレイなんだけどなぁとか、そういえば今週末の会議の件でまとまってないところあったなぁとか余計なことを考えていたら早々に終わったのでまたお部屋に帰される。
そして、来た。ランチタイムだ。
12:00 ~評価の手のひら扇風機~
病院食はマズい。
よく言われるし、多くの人がそう"思っている"。
もちろん実際に体験した人もいるだろうけど最大の理由は薄味なんだろう。
そんなわけで、本日のランチがやってきた。
あれ?なんか良さげじゃない?
本日のメニューは、三色豚丼?温野菜、バナナ。それに茶!
色合いやボリューム的にも丼モノはうまそうだ。
食ってみる。まずは温野菜。たぶん何もかかってねぇ。ドレッシングか味の素か醤油をくれ。無理だろうな、わかってるよ。予想通りっちゃ予想通りだし。期待の星行こうか。丼。
豚肉からかすかな生姜味がするゥ!!味だ!塩分だ!
しかしそこまでッ!!!打ち止めッ!!!
錦糸卵も、小口ネギからも、素材の風味は感じるよ?
でももっとこう・・・あるだろう!?
卵をほじると下に紅ショウガ! しかし、目測6本!!
6本の紅ショウガをおかずにコメを食うのか!!!!
しかしここは堅忍持久、先は長い。
バナナまでしっかり完食し、ナースステーション前まで膳を下げに行く。
ナースが「あらしっかり食べましたねぇ、どうですか今まで食べていたものと量や味は?」
なんて聞いてくるので、
「味は薄かったけどおいしかったです。なんならあと3杯はいけます」
と爽やかに答えたが「そうですか」とあっさり流された。
じゃ聞くなよ。どうせここでは食の悦びを忘れてしまうんだから。
15:30 ~ずっと大雨ならいいのに~
食後しばらくの自由時間があった。
ここでいう自由時間とは、予め告げられてここからここまでがフリータイムであるのではなく、結果的に"自由にされていた時間"を指す。
今日の札幌は日本晴れ。
朝からJはゴルフ大会だったらしい。去年に初ラウンド236を叩いた人間としてこのイベントだけは学生時代のマラソン大会の如く忌避したいものではあったが図らずも不本意な形でそれは叶った。
ラウンドの結果報告が飛び交うSNSのタブを変え、いつも使っているAmazonじゃなくてたまには時間に余裕があるからアリババで機材でも見繕ってみようかとか考えているとナースがやってきた。
これが予告された検査日程予定である。
端的にわかることは3つ。
明日と明後日は検査がけっこうある。
土日は特に何もない。
今日はこのあと何もない。
何も、ない。
窓の外は変わらず雲一つない。
ずっと大雨ならいいのに。
18:00 ~あきらめのメシ~
17:45頃に枕元の通話機から血糖測定しに来いとの連絡。
入 ←こんな感じでトボトボ処置室に行き、なされるがままに例の指先になんか刺すやつで測定。結果200くらい。でも出れないんでしょ。
ルーティン的に血糖測定~食事なので、すぐに膳が運ばれてくる。
初日の夕食は、
白米
焼き鮭とニンジン
インゲンとパプリカ
わかめともやし
キャベツの味噌汁
茶
期待感は喪失しているので淡々と口に運ぶ。
わかめともやし。うんナムルかなとか一瞬思ったけどそんなことないよね。塩分はわかめ本体のパッシブだよね。
インゲンとパプリカ。特筆することもない、スーパーの総菜にもありそうなやつ。ただ温まってるのはよかった。
ニンジン。甘い。バター炒めかと勘違いしそうになるも、脂分がまるで無いことを確認する。煮たやつだこれ。鮭は普通。骨は除かれてる。塩分は本体パッシブ。
もしかしてそういうことか?
食事が終わるとリアルにやることはなくなる。あとは寝る前の血糖測定、それ以外に部屋から出たり、誰かと会話するイベントは無い。
携帯電話の使用可能エリアもナースステーション前の2人掛けソファだ。
ワイフに「ぼくはずいぶんめにあっている」なんて掛けるわけにもいかない。せいぜいJと仕事絡みの電話をいかにもデキる風にするんだろう。
21:00 ~初日ホームシック~
2週間も自宅を空けるのは実は初めてである。
そして入院も物心ついてから初の出来事なこともあり、ワイフが心配して寝床から引っ張り出したタオルケットを持ち物に入れてくれた。
出張のビジネスホテルとかなら気にならないんだけど、シーツや毛布よりタオルケット派なので、いつも使っているものがあると落ち着くでしょって里子に出されたネコ理論ではあるがこれが効いた。
21:00、無慈悲な消灯コールがなされ、室内、廊下含め電気が消える。常夜灯っぽいわずかな灯りと、ブラインド越しで札幌市中央区の喧騒が遠くかすかに響く。21:00だぜ。ここからでしょ。
仕方が無いので布団に潜り込み、タオルケットの匂いを嗅ぐと、涙が溢れてきた。39歳と10か月、いい年こいたオッサンがである。心中意外ではあったがこれが止まらん。
おうちに帰りたい。
寝付けるかどうか問題はかなり前から懸念されていたが、どうせいつもAM3時とかに寝る人間がハイおやすみといって9時に寝れるわけがない。
10:45までLINEの送信履歴が残っていたが、その後寝落ちしたらしい。
片耳イヤホンでYoutubeのヒーリングミュージックや雑学朗読系を聞いていた記憶はある。
次回予告
網膜検査で問題が無ければ、ジム使っていいよとのこと。
どうなるんでしょ。