「世界観とは何か?」<連載04 環世界について①>
先日、ゲームデザイナーのイシイジロウさん、AI研究者の三宅陽一郎さんと「世界観」についてそれぞれ談義しました。お二人との会話をまとめたものはあらためて記事にして公開できればと思っています。
そして三宅陽一郎さんとの対談で、「環世界」という概念が、世界観の理解にも欠かせないとの気づきを頂きましたので、今日はその話をしたいと思います。
○環世界とは何か?
「環世界」とは、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した概念です。生物がどのように外部世界を認知し、関係性を持っているかということに注目した概念になります。
動物はそれぞれの知覚器官に応じて固有の世界を感じていて、その主体的な世界を「環世界」というのです。
私は三宅さんの話を聞いて、「環世界」という概念を通じて、人間が世界をどのように認識しているかを理解することで、世界観の定義である「世界とはこういうものだという世界に対する見方」に対して解像度が上がるだろうと強く思い至りました。
重要なのは「環世界」が示しているのは、客観的な世界ではなく、その生物が感じる主観的な世界だということです。
○マダニの世界
ユクスキュルが例として挙げて有名なのが、マダニの世界です。マダニは、吸血動物としても知られていますが、例えば視覚のようなものは持たず、かろうじて身体の中に光を感じる機能がある程度です。それ以外には、嗅覚や温度感覚、触覚はあり、それらの感覚や機能を駆使して、生きているのです。
マダニその行動を具体的に見ていくと、マダニの行動というのは下記のようにシンプルに決まっています。
①全身光感覚(眼はないが、光がどちら方向から来ているかは感知できる)で、より強く光を感じる方向に、植物の葉を登っていく。
②吸血するための獲物が側を通るまでじっと待機する。
③動物が体外に分泌する絡酸を嗅覚で感知し、感知した瞬間、その方向に身を投じ落下、動物に付着する。
④温度感覚と触覚で、その動物の皮膚の一番薄く吸血しやすいところまで移動して、血を吸う。
ちなみに、③で狙った獲物の上に付着できなかった場合は、また①からやり直します。
こうやって非常にシンプルな行動を繰り返すのですが、重要なことは、マダニが感じている世界は、全身光感覚、嗅覚と温度感覚、触覚という感覚によって感じられるものが全てだということです。
視覚はなく色も感じられませんし、聴覚もないので、言葉はもちろん音も感じることができません。あるいは味覚もないので味といったものにも無縁です。
私たちが当たり前に思っている感覚がないので、ダニにない知覚にまつわる情報はダニの世界には存在しないのです。
○マダニの世界を考えることで見えてくるもの
マダニの世界は、我々人間が感じている世界とは違いますが、だからといって人間が感じる世界が完全でより価値があり、ダニが感じる世界が不完全で価値が低いわけではありません。
それは、紫外線が見える昆虫からしたら人間が見える世界は一部でしかないのと同様ですし、犬からしたら「人間ってそんだけしか匂えないの?」となるかという話です。
つまり、感覚器官によって主体的に感じる世界はそれぞれの動物によって違って、その中でその動物なりに主体的に行動している世界がありそれを「環世界」と呼ぶのです。
生物はたくさんの情報に溢れるこの世界から、自分の知覚によって切り取り、「自分だけの世界」を構築している。
今日はここまでにして、次回は「機能環」という概念を説明して、より「環世界」を深く考察していきます。
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