サピエンス全史下巻レビュー

下巻のレビューです。下巻からはだいぶ近代に寄ってきます。

近代は人類主義の時代です。過去の歴史は神や文化を中心とした生活でしたが、近代は個人の思想や生き方という観念が重要視されます。まだコミュニティーという存在は重要ですが、昔ほどの拘束力はありません。現にほとんどの人が3軒先の家がどのような家庭でどのような仕事をしているのか等知る由も無いでしょう。しかし、面白いことに1000Km離れた人たちが何時に起きて、何時に寝るのかという情報は正確に知ることができるのです。ネットの力を使って。つまり、私たちは地域性という枠組みを超越し、自身が望むコミュニティーをつくることができ、その中で生きることができるのです。ただ、それは時に暴力に発展したりもします。ナチスは「選択」という観念から大虐殺を引き起こしました。もちろん、日本も。モラルの無い自由と欲望を追い続けると結果的に悲劇を招くのは歴史が証明しています。

また、本書では人類が劇的に進化した一つの大きな要因として妄想する力というのを挙げています。ひと昔前は過去の栄光という言葉があるように、過去が良い時代で今はダメな時代という認識が人々の中でありましたが、近代では何かと未来を語ります。これは歴史上初めてと言える出来事かもしれません。それだけ未来が予測しやすくなったのかもしれません。しかし、まだ見ぬ未来を妄想することにより、今何をするべきか、何をすれば良いのかが明確に分かるようになったのです。

本書は近代はエネルギーの時代と定義しています。アインシュタインが発見したE=mc2の公式から人類はエネルギーをふんだんに使うことができます。それによって多くの産業が生まれることになりました。もちろん原爆の悲劇もですが。。ただ、昔の人が崇拝した太陽の神を自ら作り出せることにより人類は発展し、人類以外の動物達の悲劇を生み出しました。例えば、牛は生まれ、小さい子屋で育ち、そして数年で食用として殺されます。外の世界を知らないまま、その生涯を終える。その構図は近代社会そのものです。エネルギーを味方につけることにより人類はまさに食物連鎖の頂点に君臨したのです。この先にあるのは遥かな栄光なのでしょうか?そうとは言い切れません。人類はコンピューターを作りました。今、そのコンピューターに心を育むプロジェクトが推進し、ヨーロッパはそれに多額の予算を費やしているそうです。コンピューターが人間を超える2045年問題なるキーワードがありますが、それは人類の死を意味しないことを祈るばかりです。

何はともあれ、上下巻に渡る人間の歴史を語った本書はまさに名作にふさわしく、我々人類に大きな提言を残しています。また、しばらく経ったら読み返したいと思います。

(ブログ移転につき過去ログです)


世界を旅するTraveler。でも、一番好きなのは日本、でも住みたいのはアメリカ・ユタ州。世界は広い、というよりも丸いを伝えたいと思っている。スナップシューターで物書き、そうありたい。趣味は早起き、仕事、読書。現在、学校教員・(NGO)DREAM STEPs顧問の2足の草鞋。