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あの人もこの人も"私"

「否定形の意思表示って誰にも見えないんですよ」
「どんどん外界を遮断して、自分から独りに逃げ込んで、色んなことを"してやらない"って決めて」
「それで世界を否定した気になっても、周りから見ればそれって、ただそこにいる人なんです」
「意識してやらないでいたこととか、意識して言わないでいたこととかって、誰の目にも見えない分、自分にだけはめちゃくちゃ目につくようになると思うんですよ。これだけはしてやらない、やってやらないって切り捨ててきたものたちが、逆にどんどん自分を縛っていく」
「で、いつか、そういうものたちに人生を乗っ取られるんです」

生殖記/朝井リョウ

ひえ〜っ。
朝井リョウさん「生殖記」読みました。

ひとりの人間が持つ色んな側面を解体して、各登場人物に割り振って、その登場人物ひとりひとりを解説していくので、全方向から痛点をつかれているようで(いつもながら!)大変痛い反面、腑に落ちることが多い作品でした。
あの人もこの人も"私"なんだな、と。

しかし、今作は特に痛かったな〜。ちょっと立ち尽くしてしまうほどに。

作品の具体的な内容も感想も書きません。気になっている方は読むでしょうし。
本の軸とは別のところでひとつ、とても思ったことは「令和だな〜」と言うことです。と、いうのも最近LINEでもSNSでも「〜」をよく見かけませんか?
「生殖記」の作中にも多発します。「大したことじゃないですよ〜。私は私で明るく軽くハッピーに受け止めてますよ〜。それをあなたに押し付けたりはしませんよ〜」というこの「〜」が持つ空気感、まさに令和のムードなんだな、と思いました。夏より戦前から戦後にかけての昭和の作品を集中的に読んできたので、よりそのムードの違いがはっきりとしたのかもしれません。

デザイン、ファッション、建築、映画、エンタメ、文学、言葉、、、とその時代を反映するものは多くあります。アートもその一つだと思いますが、自分がその世界にいると近すぎて私はなかなか認知することができません。
その点、自分がいる業界から距離があって、時が経っても本物が書店で気軽に手に入る本というメディアは、その時代のそのままの空気感を受け取るのにとても良いものです。
持ち運べますしね。

前回更新予定だった10月8日はお休みしてしまいました。
来てくださった方すみません。

読みに来てくださりありがとうございます。
今回は霜降の更新でした。(こんなに暑くて霜降!)
次回は11月7日、立冬の頃更新します。

「生殖記」朝井リョウ
ブックデザインも令和っぽいですよね。


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