波
静かに息をしている、と思った。
周りは静寂だ。
なんの音もしない。
ただ自分の呼吸するわずかな、ほんのわずかな音と思しき何かを感じるのみだ。
一人で生きているわけではないと分かっている。
けれども、途端に孤独の装いがあっという間に身を包んできてしまう。
いったい、自分は何をしているのだろう。
目の前にある、なんでもないことばかりが圧を放ってくる。
押し寄せる、波が苦しい。
「仕方のないことよ」
いつかの彼女はこう言い放った。
「・・・いつか、解放されるときは来るの?」
絞りだした問いに、しばらく間をおいて彼女は答えた。
「水は低きに流れるのよ。この地球上であれば」。