さみしい春
冷えた冬の朝、巻いたマフラーの中でゆっくりと息を吐く。
今朝はあの人に会えるかな。
バスを待っている人の中で、いつも一人で佇んでいるあの人は、
いつも目線を本に落としながらヘッドホンで何かを聞いている。
あの制服はきっとあの学校だいうことは分かる。
わたしは友達とおはようの挨拶を交わし、昨日見たテレビの話をしながら、目の端であの人の気配だけ感じ取る。
あの人が顔を上げたときの目線や、
眠そうにあくびをしたり、
何度もページをめくったり、
時折スマホを見たり、
何を考えているのか気になる。
声さえ聴いたことがないのに、
どうしてこんなに気になるのだろう。
最近気づいた唯一のことは、
読んでいる本は大学受験の本だということ。
ああそうか
きっと春にはもういない。
背の高いあの人は、
その窮屈そうな学生服はきっともう着ない。
朝だけのそわそわする気持ち、
バス停だけのふわふわした気持ち、
どうすることも、ないけれど。
吐いた白い息が消えていくように、
さよならの気配も感じながら。
春の訪れを感じさせる温かさが
ただたださみしい、バスの中の日差し。