あの時あの場所であのCDを買ったこと

 誰だって覚えがあると思いたいのだが、ヒットチャートのラインナップをどうしてもお仕着せのように感じてしまって、自分は違うんだ、同年代のやつらが誰も知らないような音楽を聴いているんだ、そのくだらないマウントを取るために、洋楽やインディーズレーベルに手を出した時期がある事を。

 下手したら今はよほどの大型店にしかないのかもしれないが、昔はちょっとしたCD店にも試聴機が置いてあった。それに加えて、オーナーやバイトの好みでCDを仕入れて、それを目立つ所に並べる――ああ、いい時代だってなんて言うと、懐古主義に思われるだろうけど。

 でも、俺はそこで出会ったんだ。BEAT CRUSADERSと。

 結局ライブなんて一度も行けなかった。CDを初めて買った頃は彼らがどこの誰かも分からなかったし、彼らがいわゆるメジャーシーンに姿を現す頃には、それなりに金も自由になる大人になっていたのに、まあまたいつか、そのうち、今度、そんな言い訳をしている内に、彼らは『散開』してしまった。仮面をつけたままの彼らが、今でも焼き付いている。

 最初にハマったのは『BE MY WIFE』だった。ライナーノーツが死語だとしたら蘇らせてやりたい。それぐらい歌詞を見ながら曲を聴いたんだ。

 彼らが何を聴いて何を考えて曲を作っているかなんて知らなかった。ルーツを追うなんてことはしなかった。ただただかっこいいと思った。

結婚しよう
人生のパートナーになって下さい
嫁に来ないか?
今年イチ押しのキミよ

 曲が出てすぐではなかったと思うけど、当時はカラオケボックスの飲み放題が安くて、みんな喉が千切れるほど唄って安酒を飲んで、バイト代を散財していた。当時のJ-POPほどに唄えるわけがない、素人の喉なのに、俺はビークルを唄いまくった。なんだそれ、知らねえよ、何度そう言われてもそうしている内に、今日はビークルないの、なんて揶揄されるほどに唄い続けた。

 BLOCK BASTARDを唄った。HUMBURGを唄った。Ghostを唄った。CDを買い、CDを買い、CHRISTINEを唄って、深夜番組を見て、JAPANESE GIRLを唄って、君がサヨナラを言わないように 愛していると言ってくれ サヨナラ それでHIT IN THE USAを唄って、就活の面接先でうお新曲出てるやんけってCD買ったりして、そんなことをしていたらものすごい年月が経っていて、解散しかけたりメンバーが変わっていたりMステに出るぐらいになっていて気付いたら散開していて、俺もいい大人になっていた。当然時系列はめちゃくちゃだ。

 BECKがアニメになった時のHIT IN THE USAが初のヒット曲なんて言われるけれど、俺にとっては全部がヒット曲だった。悲哀があっただろうかと言われると分からない。確かに男目線の曲で、切なくて、叶わなくて、裏切られて、悲しくて、届かなくて――そんな曲も多かったかもしれないが、そういう考察や分析は今更どうでもいい。ただただ、たまらなかった。ずっと聴いていたかった。

 SとEとIとSとYとUとNのキーを叩いている自分を焼灼したくなるぐらい、もう青春という言葉はかなり、だいぶ気恥ずかしい。そういう歳になってしまった。だけど、だからこそ思い返してしまうほど、ビークルは、BEAT CRUSADERSは、俺の青春だったのだと思う。でもこれから聴くのはaikoのストローだけどな。

 

 

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