最近行ってる美容室
院ではなくて室って感じで、最近そこで髪を切っている。メンズ、シャンプーブローつきで1210円。その10円は何なのかって感じはするが、腕は確かである。
そもそもここ数年、バリカンでのセルフカットで散髪代を節約してきたのだが、さすがに安バリカンのモーターがヘタってきて、切れなくはないのだが結構時間がかかるようになってきてしまっていた。ユニットバスでシャワーを浴びずに裸でいる時間は夏も冬も気温の問題でつらいし、春も秋も別にそんなに時間が余っているわけではないし、わりと気をつけていないと剃り落とした髪の毛が排水口に詰まって終わる。３回に１回は詰まる。終わる。
アマゾンで安いバリカンを探しつつ、でもなんかQBハウスはやだなあとか思いながら、時折1700円ぐらいのマダムが毛先揃えますみたいな美容院でお前は求めてる客層じゃないでという視線を感じながら散髪してたりしていたのだが、ある日そこも値上げして2000円を超えたので行かなくなった。そう、その行かなくなったその日に見つけたのだ。恐らく店主の名字であろう二文字を冠した、Y美容室を。
買物やらなんやらでそれなりに通る場所ではあるので、存在には気付いていたのだと思う。でも明らかに古ぼけているし、それこそ客層ではないと思っていた。だがメンズ1210円という貼り紙を見て、ほぼノータイムでドアを開けていた。
古い感じの美容室、と言われるとどんな感じの店内を想像するだろうか。明らかに昔のカット用マネキンが置いてあったり、マガジンラックに女性自身とかそのあたりの雑誌が突っ込んであったりとか、個人的にはそんな感じだった。だが店内は九龍城だった。かなり狭いところにカット台が３つ詰め込んであり、鏡の前にモニターとDVDプレイヤーが置いてある。切ってる間映画とか観れるんか、わりと最先端サービスなのかしらと思ったが、実情はかなり違っていると言うかヤバげだった。
一番奥の台に通されて座ると、足元にDELLの業務用みたいなデスクトップPCが置いてあるのだ。そこからケーブルが無方図に延びて、それぞれの席のモニターに繋がっている。画面はウィンドウズなのだが、デスクトップを埋め尽くすのは動画のファイルで、拡張子がiso。もちろん全部が全部とは言わないが、isoのファイルってあんまりそのまま扱わないよね？ 一時的にはあると思うけど…そんでファイル名のドラマとか映画が最新すぎる。トップガンとか。違法ダウンロードやんけと思うまでにそう時間はかからなかった。
今店長ちょっと出てるから待っててとマダムに言われて待っていると、５分ほどして恰幅のいい白髪の男性が帰ってきた。軍物のTシャツにハーフパンツ、恰好はかなり若めだ。「なんか観る？」と言ってバリカンの横にあるマウスを動かし始めたので、あかんやんと思いながら別に最後まで観れるわけじゃないしじゃあワイルドスピードでって言ったら「いいねえ～何も考えなくていいしね～」と言われて感想が同じだった。
指定の髪型、まあモヒカンと言うか真ん中残してあとバリカンで３ミリという恐らくやりがいのなさそうな髪型を伝える。過剰に話しかけてくるタイプではなく、作業が始まるとあっと言う間で、シャンプーも含めて20分ほどで終わった。髪の伸びている方向の問題で、モヒカンの際が普通の美容室でもわりと残っていたりするのだが、その辺も細かくアタッチメントを変えて攻めてくれて、完成度はかなり高かった。
普通の美容室の流れだと、ブローが終わって「何か整髪料つけますか？」とか聞かれるのだが、予想もしていない言葉が出てくる。「編み込んでいい？」と。なんでだよ。「え？」と聞き返すと、毛量と長さがちょうどいいから編み込みたいと思ったのだと言う。思ったからって言う？
でもまあ別に時間もあったのでじゃあお願いしますとか言っている自分がいる。なんでお願いしてんだよ。許可だろむしろ。結構グイグイ引っ張られるもんなんだなと思って15分ぐらい経ったら頭の真ん中だけコーンローみたいになっていてそんなに人と会う仕事じゃないけどこれはダメだわと思って爆笑してしまう。
そういや何も確認しなかったけどこれで作業代取られたらやだなと思ったら無料だった。「いいねえ～」って言われて「ははは」みたいな愛想ですらない乾いた笑いだけが出た。１日そのままでいたけど、人と会う前に解いた。イキッてる感満載だったので。
ともあれ安いし腕は確かだしなんかどういう経緯と言うか人生で今こういう店をやってるのか聞けたらおもろいかなあと思い、つい三日前にも行ってきたのだが、今度は終わりに「結構クセついてるからアイロンだけどストレートにしていい？」と言われて断らなかったらスーパーサラサラモヒカンにされて今めちゃくちゃ困っている。その流れのクセで後ろに流れていたから整髪料とかそんなにいらなかったんだけど、サラサラになったら頭が前に傾く度にめちゃくちゃ目の前に降りてきて毎回イライラしている。でも恐らく今後も通うだろう。今度は何していいか聞かれるのを楽しみにしている節すらある。