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【追憶の旅エッセイ #80】巨大岩に魅せられてペルセへ。濃霧と化石探しと冒険と
ガイドブックで「ペルセ岩」を初めて見たとき、即、旅の目的地リストに加えた。
実際、私にとってはカナダ中で見た景観の中で、オーロラの次に印象に残っている大好きな場所だ。
まずホステルが良かった。「〇〇の歩き方」などに掲載される前の、できたばかりのホステルで、直前に滞在した宿で出会った旅人に聞いた。
キッチンやリビングの大きく取られた開放的な窓から見える、町のシンボルでもあるペルセ岩が佇む様子は、まるで絵画のよう。木材を駆使した空間は木の香りに包まれ、新築の匂いと相まって心地が良い。
五感的に心地いい宿に落ち着けたというだけで、その土地には幸せな記憶が残るものだ。
お目当てだったペルセ岩は、ガスペ半島の先に浮かんでいるような、でも圧倒的な存在感を放つ一枚岩。その岩にピアスのような穴が開いているところから、ペルセ(フレンチでピアス)という名前がついたらしく、その由来がちょっと粋で可愛い。笑。
堂々とした佇まいは、オーストラリアのエアーズロックのそれを彷彿させる。巨岩という存在は、なぜこれほど人々を惹きつけるのだろう。エアーズロックもペルセ岩も規模は違えど、極論、大きな岩でしかないのに。とか、答えのない思いを巡らせたり。
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初日は快晴で、その岩の全体像をしかと堪能できたのだけれど、打って変わって翌日は霧が出てしまった、しかもうんと濃いやつ。その濃霧に阻まれて、すぐ目の前にあるはずのペルセ岩の姿が見えないほど!
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だから延泊をして、ホステルでまったりと過ごすことにする。
本当はもっと岩に近づきたかったのに。そう実は干潮時には、岬からペルセ岩までの道が姿を現す。
そこをペルセ岩のピアスと名づけられた部分まで、歩いて行くことができるそうだ。それを私は、出会ったばかりの日本人の旅人ホリー(仮名)に聞いた。
「明日天気がましになったら一緒に行こうよ」という旅人同士の社交辞令とも本気とも取れる約束をした。でも旅人に仕事や家族の都合で急用が入ることはまずないので、たいがい守られてしまうのだ、これが。笑。
さて、あまりに暇過ぎて途方に暮れていたら、私のルームメイトのフランス人のおばちゃんが「見て見て、化石拾ったのよー!」と得意気に披露してくれた。
ペルセ岩を含むこの辺りは、なんと地層的に約4億年の歴史があるとかで、無数の化石が埋もれているんだと、そのおばちゃんが教えてくれた。
こんな風に、旅先での目的や情報は、ガイドブック以外にもどんどん入って来る。
そんなこんなで宿から近いビーチにそびえる奇岩のあたりで、化石探しを開始!でも探せど探せど、おばちゃんが見せてくれたような立派な化石は見つからない。
一時間以上はホリーと並んで探し続けたけれど、結局諦めて宿に戻る。
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すると、なんと例のおばちゃんが、別の化石をまた見つけたらしく私のベッドの上に置手紙と一緒に置いてくれていたというサプライズ!
別に化石マニアでもないのに、あれほど夢中で探したからか、プレゼントされるとなぜこれほどにも嬉しいのか。苦笑。羨ましがるホリーを横目に、化石に思いを馳せる私なのだった。
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さて翌日は曇りのち晴れという、グレイな空が広がっていた。それでもペルセ岩はちゃんとその姿を見せてくれている!こんなに近くにあったのか、とその距離感に驚く。
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干潮は午前11:30、ということでその時間に合わせて向かうと…なんと!皆考えることは同じようでまるでアリが行列を成すがごとくペルセ岩まで、いやその周囲に人間が連なっていた。私たちもその列に加わる。
さっきまで海水に浸かっていた岩肌を歩くなら、足元が濡れるだろうという予想でビーチサンダルで行ったのだけど、これがまぁ、滑る滑る。歩きにくいことこの上なし。とは言えスニーカーだと、間違いなく水浸しになり靴下までびしょびしょになり不快だ。
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このときの正解は足首がしっかり固定された歩きやすいスポーツサンダル、だな。旅先ではときどきこういうシーンに出くわすので、やはり一足は揃えておいた方が良さそうだ、と学ぶ。
とにかくペルセ岩だけど、周囲をすべて歩けるわけではないので、歩いた人が戻るときは、また同じ方向からやって来るという難点がある。それでなくても歩きにくい道を、譲り合いながら進まなくてはいけない。
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ただもちろん、私こういうの、大好きなので。こういうの、すなわち冒険ぽい道のりのことだ。
目の前でおじさんが水たまりに片足突っ込んだ、と思ってくすっと笑ったら今度は私が途中で滑って手を岩についたりね。笑。
途中で同じホステルに泊まるフレンチの男の子2人と遭遇。この不便な場所で片手にはクーラーボックスを大切そうに抱えている。
「あの中身、ビールとたばこなんだよ」とホリー。笑ってしまう。
ま、おかげでやっとの思いで到着した巨大アーチ(ピアス部分)を見上げながら、ひと缶渡されて「Cheers!」ができたのは良き思い出だ。
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フレンチの男の子たちはビールを楽しみ始めたので、私とホリーは一杯だけでお暇することに。だって帰りもまたあの過酷な道のりが待っているのだから。
私たちが陸側へ戻った頃に、また霧が濃くなってきた。「ツイてるね、私たち」と言い合いながらホステルに戻る。
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ペルセ岩がいつもどこからでも見つけられる、ペルセという町。美しかったな、楽しかった。まだ当時は観光地色もそんなに強くなく、のんびりとした雰囲気も心地良かったし。
半分以上は天候に恵まれなかったけれど、それも趣があったと言えなくもない。
だから東カナダでおすすめの場所を聞かれたら、私は迷わず「ペルセ岩のあるとこ」とお答えする。
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天候に恵まれた初日はその足でツアーに参加。私とカナダ人のおばあちゃん2人で、ゆっくりなペースだったのも、なんだかほっこり。笑。ペルセ岩を遠くから眺めたり近くの奇岩を周った。
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