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いまさらながら振り返る”キャリアコンサルタント 10万人”の意味合いは何か?


本文書の目的

書いている人間のプロフィール

さて、はじめに書いている人間のプロフィールを紹介します。どんなバックグラウンドを持った人間が書いているのかを想像いただくことで、コンテキストがある程度わかっていただけるかと思います。

  • アラフォー(上側)の男性、妻子あり

  • 2021年にキャリアコンサルタント試験に合格、登録中

  • 東証プライム上場企業で、商品事業の統括責任者をしている。いわゆる人事部門やそれにまつわる仕事の経験は無し

  • 個人的な興味と探究心から、人材開発・組織開発に関する学習を進めている

書きたいと思ったモチベーション

 キャリアコンサルタント目標10万人! というのは、私がキャリアコンサルタントの試験を受ける頃にもよく聞いた言葉です。覚えやすい数字でインパクトがあるのか、この10万人目標はずっと記憶の中に生きています。
 一方で、
10万人ってなんの数を数えているんだっけ?とか、
10万人ってそもそも、なんでその人数なんだっけ?
とか、
キャリコンが10万人いたら何が起こるの?
とか、
そういった疑問がフツフツと湧き上がってきました。
 元となった「キャリアコンサルタント養成計画」の中には、これに対する明快な答えはなく、これは本格的に自分で調べるしかないんだろうな、と思い至って文書を書き始めました。

 また、キャリアコンサルタントの試験も含めて、人材開発、組織開発、心理学、リーダシップなど、いろいろなことを勉強してきました。
自分自身がどれだけわかっているのかを確認するために、また自分自身が価値ある専門性を持っているのかを確かめるために、きちんとアウトプットしようと思いました。
 今回の文書を通じて自分自身が学びを深められるように、また人材開発や組織開発に携わる方、部下を持つマネージャの方の学びの一助になればと思っています。
 その目的を達成しやすくするための少しの工夫として、年号をすべて西暦で書いています。政府文書を多く引用・参照していますが、基本的に元号で書かれています。時系列を理解しやすくするために、すべて西暦に変換しています。引用中においても、基本的に西暦に変更しています。

10万人に対する2023年10月時点の定量評価

目標設定時の人数計測の条件

 目標を定量化することは、目標達成をより良い形にするための必須条件です。定量化したからには、きちんと定量的に評価をしなければいけません。
評価は、目標設定時とApple to Appleな方法で評価しなければ意味をなしませんので、まずは目標設定時の条件を再確認しましょう。

標準レベルのキャリア・コンサルタント及びキャリア・コンサルティング技能士の累積養成数について、2024年度末に10万人とすることを数値目標とする。

2015年 「キャリア・コンサルタント養成計画」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0269&dataType=1&pageNo=1 

2016年のスタート時点で、この条件に基づいて人数をカウントすると45,000人となります。(技能士の5,500人 + 標準レベル39,500人)

第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会
キャリアコンサルティング関係資料

2023年10月時点で入手可能な最新統計値(おそらくすでに10万人に到達)

さて、目標設定時の条件設定と人数がわかったので、現状の数値を評価しましょう。
すんなりとやりたいところですが、厳密には同一条件で比較することができません。その理由となる変化点が、キャリアコンサルタントの国家資格化および登録制度の開始です。

目標設定時(2015年)には、キャリアコンサルタントは国家資格化されていませんでした。また、明確な登録制度もなく、各団体が自主的に管理している標準レベルのキャリアコンサルタントの人数をカウントしていました。
国家資格化とともに、各団体の管理数字の取りまとめがなくなりました。
管理されている数字は、

  • 国家試験の合格者数

  • 技能検定合格者数

のふたつです。このふたつがきちんと統計されているのは、令和3年度末(=2022年3月)時点で、その数は約98,000人となります。いかがそのデータソースになります。

キャリアコンサルティング施策基本資料集 より
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/001013982.pdf


キャリアコンサルタント国家試験は、1回の試験で概ね2,000人の合格者を輩出します。(2団体合わせて)
2022年3月以降で、合格発表がなされたのは、第22回・第23回の国家試験の2回です。各回で2,000人の合格者数がいたとすると、すでに10万人に到達したことになります。

【追記更新】23年12月30日更新 10万人超えの公式アナウンス

2023年12月22日に厚生労働省より「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」が公表されました。
この報告書の中に、キャリアコンサルタントの人数に関する言及がありましたので引用します。
結論としては、この記事で私が申し上げていた通り、当初のカウント方法で評価すると10万人を超えたということです。

(2) キャリアコンサルタントの登録状況等
平成 28 年4月にキャリアコンサルタント登録制度が創設されてから 7 年が経過する
中、国家資格登録者は年々増加し、創設 1 年後の平成 29 年 3 月末には 25,518 人であったものが、令和5年3月末時点で 65,879 人となっている。
平成 26 年 7 月に厚生労働省(旧職業能力開発局)が策定した「キャリア・コンサルタント養成計画」では、「標準レベルのキャリア・コンサルタント及びキャリア・コンサルティング技能士の累積養成数について、平成 36 年度(=令和6年度)末までに 10 万人とすること」を目標とされたところ、キャリアコンサルタント登録制度が創設されたこと及び当該計画において想定されていたカウント方法を踏まえてキャリアコンサルタント試験の合格者数を含めてカウントすると、令和4年度末(令和5年3月末)時点での累積養成数は約 10 万 7 千人となり、その目標を達成している状況である。

キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書 より

「キャリアコンサルタント」「10万人」の意味合いを、定性・定量の両面で振り返る

【定性面】目標設定時の社会情勢における「キャリアコンサルタント」の意味合い

キャリアコンサルタントの人数についての振り返りが終わったところで、あらためて10万人の意味合いについても振り返ってみたいと思います。そもそも、キャリアコンサルタント10万人を育成することの目的は何だったのでしょうか?
まずは、キャリアコンサルタントそのものの意味合いを考えるために、キャリアコンサルタントが必要とされる背景、理由について確認しましょう。

原文(キャリア・コンサルタント養成計画)は以下に引用していますが、長いのでサマリします。

  • 働く人または働こうとしている人が、希望する仕事を自ら選択し、仕事を通じて幸福を追求できる社会を作る

  • そのためには、働く人が自らの職業生活設計をし、それに即した職業選択や能力開発を行う必要がある

  • 働く人が集う労働市場のインフラとして、労働者のキャリア形成支援システムが必要であり、整備をしてきた

  • キャリアコンサルタントは、キャリア形成支援において重要な役割を果たすため、その質・量ともに重要である

1 背景・目的
(1) 厚生労働省では、2001年度に策定された「第7次職業能力開発基本計画」において、労働者のキャリア形成支援システムを労働市場のインフラとして位置づけて以降、キャリア・コンサルティングを担う人材として、キャリア・コンサルタントの養成に取り組んできた。具体的には、養成モデルカリキュラム及び能力評価基準の策定(2002年度)、キャリア・コンサルティング技能検定制度の創設(2008年度)及びジョブ・カード制度におけるキャリア・コンサルティングの活用(2008年度以降)等を経て、キャリア・コンサルタントの存在は、徐々に社会に浸透し始めている。

(2) キャリア・コンサルティングは、個人が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう個別の希望に応じて実施される相談その他の支援であり、個別相談を主としつつ、研修・セミナー等のグループ支援や組織への働きかけその他の手法を通じて実施されるものである。

(3) こうしたキャリア・コンサルティングでは、個々人の生涯にわたる持続的な職業キャリアの発展を確保するという視点、すなわち、職業キャリアにおける各課題に向き合う個人を支えるという視点が重要であり、全ての働く者及び働こうとする者が希望する仕事を自ら選択し、仕事を通じて幸福を追求できる社会の実現を推進していく上で、キャリア・コンサルタントの果たすべき役割は大きい。

(4) 昨今、政府レベルにおいても、キャリア・コンサルティングへの関心と期待は高く、産業競争力会議「雇用・人材分科会」中間整理(2013年12月)や「「日本再興戦略」改訂2014―未来への挑戦―」(2014年6月閣議決定)に盛り込まれた記載等も踏まえ、質の高いキャリア・コンサルタントのさらなる養成を図ることは喫緊の課題である。

(5) 本養成計画は、キャリア・コンサルタントの計画的な体制整備に資するため、具体的な数値目標を設けつつ、今後のキャリア・コンサルタント養成の方向性を示すものである。

2015年 「キャリア・コンサルタント養成計画」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0269&dataType=1&pageNo=1


【定量面】量感としての「10万人」の意味合い

社会情勢からキャリアコンサルタントの重要性や必要性は理解できました。次に「なぜ10万人必要なのか」ということを振り返ります。

この観点が今までさっぱり抜け落ちています。誰からも10万人の意味を聞いたことがありません。数値目標には必ず意味合い(Why)を持たせないと、死んだ数字になってしまいます。

この答えは、キャリアコンサルタント養成計画が発信される以前の研究会で議論され設定されています。以下、2枚の資料を引用します。

第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会
キャリアコンサルティング関係資料
第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会
キャリアコンサルティング関係資料
第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会
キャリアコンサルティング関係資料

最後のスライドが、もっとも詳細な計算式で必要数を割り出しています。
企業領域での活動人数が63,000人と最も期待されています。
中でも500人未満の事業所でのキャリアコンサルティングの実施に人数が必要とされています。その数51,000人です。

1日二人に対して面談するとなっています。年間稼働日を240日とすると、2×240=480、約500人です。1,000人の労働者の半分が受けるとしたら、という仮定なのでこれで算数はあいます。

現実的には、年に1回の面談を受けただけでは何もならないので、職場ラインでのフォローアップが前提になっている数字だと言えます。

さいごに、そして今後

キャリコン業界で最も有名な数字である「10万人養成」について、定性面・定量面から振り返り、その意味合いを確認しました。
10万人への到達は可能である(すでに到達しているはず)ことはわかりつつも、「働く人または働こうとしている人が、希望する仕事を自ら選択し、仕事を通じて幸福を追求できる社会を作る」という本来の目的達成にはまだまだ距離があることを感じました。

職業能力開発基本計画を中心に様々な資料を見てきましたが、ビッグワードとして使われていて、今後も問題になってくるであろう頻出ワードが
  「キャリアアップ」
です。
何気なく使われているこの言葉に、年功序列の前提や、人生が直線的に積み上がっていくようなイメージを感じます。
「幸福を追求」するために、一人ひとりが何をもって「キャリアアップ」なのかを語れるようにすることが、キャリアコンサルタントとして最も重要なことなのではないかと感じました。


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