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ああ、生まれてきてよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、ね。(おかえり寅さん)
人間は何のために生きてんのかな?
見送りに来た満男に、参考書でも買えと千円札数枚を渡し、カバンを受け取る寅。
満男 「伯父さん」
寅 「何だ?」
満男 「人間てさ」
寅 「人間? 人間どうした?」
満男 「人間は何のために生きてんのかな?」
寅 「何だお前、難しいこと聞くなあ、ええ?」
寅、しばし考える。
寅 「うーん、何て言うかな。ほら、ああ、生まれてきてよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、ね。そのために人間生きてんじゃねえのか」
満男 「ふーん」
寅 「そのうちお前にもそういう時が来るよ、うん。まあ、がんばれ、なっ」
寅さんは、古臭いと思っていて、観るのを敬遠していた。
けれども、おかえり寅さんを観て、その魅力を発見した。
いや、寅さんに惚れてしまったと言っても良い。
戦後の大家族が、核家族になり、今や子供がいない家庭も多い世の中。
寅さんの世界に描かれる社会、家庭、地域の世界は、ずいぶんと遠いようにも思える。
だからこそ、人間臭さがたっぷりの、この映画に心打たれた。何かを言えば、ハラスメント。今までの理不尽な世の中と比べてみたら、今はよくなったこともたくさんある。
けれども、それと同時に失ってしまったものも多い。
それは、人間臭さなのかも知れない。
おかえり寅さんを見た後に、寅さんの1作目を観た。裕福ではなかった、裕福になりたいという気持ちがあふれていた、ハングリー精神を持った人たちの世の中が描かれていた。
それは、最初から最後まで、人間臭さがいっぱいの映画だった。親がいない、寅さんとさくら。そして、北海道大学の名誉教授でありながら、息子と縁を切り、結婚式に現れたひろしの父親と母親。
完全に満足して生きることはできない。人は誰しも光と影を持って生きている。それを受け入れ、生きることがいかに尊いことなのか。
寅さんを観ながら、頭の中で家族や友人、もう会えない学校の先生や近所の人をおもいだした。自分は決して自分だけで生きているのではなく、多くの人たちとの出会いと別れに支えながら、今日までに人生があるのだと思った。
寅さんがある世界に生まれてこれて、ああ、生まれてきてよかったなって思う。