フルリモート、フルフレックス、フルアシンク、フルマスク
働き方のパラダイムというとフルリモートやフルフレックスが有名と思いますが、他にもあります。
フルリモート
基本的にリモートだけで済ませるスタイルです。
出社はほぼない
フルリモートでは、出社はほぼありません。あるにしても稀です。
ただし、その稀のタイミングで組織的なイベントを催すことが多く、参加が事実上強制されているケースがあります。これはフルリモートとしては弱いです。実際、弱くなります。イベントがじわじわと増やされていって、気づけばフルリモートがなくなったりしています。あるいは、一応はあるが、情報格差が生まれていたりします。
この点は以下記事でも述べました。この点を軽減するには、たとえばフレキシブルというパラダイムに頼る必要があります。
出社してもいい
誤解されがちですが、フルリモートだからといって出社していけないわけではありません。
※組織的にオフィスが無いなど「出社する場所がない」例は除きます。実際、このケースは稀でしょう。
必要なら出社してもいいし、出社ばかりしてもいいのです。ただし、出社をほぼしないフルリモートも認められますし、フルリモートが出社派よりも冷遇されることもありません(ないように努めていきます)。
フルリモートは可能だが、転換が要る
デスクワーク程度でしたら、現代であれば基本的にフルリモートは可能です。そのためにはデジタルの力に頼る必要があり、いわゆるDXはよく知られています。
DXは「ビジネスモデルをデジタルありきに変える」ために「色々と抜本的に変える、特にデジタルを使う」ものですが、これはフルリモートでも言えます。デジタルの力を前提にするということは、やり方や考え方もデジタル流に変えねばならないということです。
ですが、DXだけではフルリモートは成せません。あるいはせいぜい「リモート会議ばかりしている」というエセフルリモートになってしまいます。ここを脱するには、もう一つのトランスフォーメーション(転換)が必要で、それがAsync Transformationです。
またDXにせよ、AXにせよ、転換はボトムアップで行えることではないので、トップが投資に踏み切らなくてはなりません。この点は(DXですが)以下記事で述べました。
フルフレックス
いつ働くかを完全に自分で決めていいスタイルです。
ただのフレックスとは違う
フルフレックスと、ただフレックスは違います。
後者はフレックスタイム制と呼ばれるもので、開始時間と終了時間くらいは自分で決められますが、制約がつきます。
たとえばコアタイムと呼ばれる「必ず勤務しなければならない時間帯」がついていたりします。10::00~15:00など、昼頃に設定されることが多いです。厚生労働省の『フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き』ではコアタイムは任意としていますが、実態としてはコアタイムはよく導入されます。
他にも昼休憩が12:00~13:00で固定されていたりします(コアランチタイムとでも呼びましょう)。
フルフレックスには、そのような制約はありません。
労働基準法など法的な都合もあるため、さすがに完全に自由とはいきませんが、コアタイムや12:00~13:00一律の昼休憩といった程度であればなくせます。
スーパーフレックスと呼ばれることもあります。一方で、フルフレックスやスーパーフレックスと書いてあっても、コアタイムやコアランチタイムが入っていることもあります。また、月に150時間以上働かなければならないといった制約が入っていることもあります。
実はフルリモートよりもはるかに難しい
フレックスという考え方自体は、昔から裁量労働制もあったようにある種馴染み深いものです。
しかし、定着の難易度としてはフルリモートよりもはるかに難しかったりします。というのも、仕事はコミュニケーションが多くを占め、その相手側の制約に事実上従わねばならないケースが多いからです。
会議の個別調整が面倒だからと定例会議にするケースは多いですが、労働時間も同様で、結局コアタイムやコアランチタイムの形で定めてしまいがちです。
そういうわけで、フルフレックスを謳っている場合でも基本的には信用しない方がいいです。そんなかんたんに実現できるものではないからです。
フルフレックスの肝は非同期と委譲
フルフレックスを実現するためには、コミュニケーションに伴う拘束を大胆に減らす必要があります。
しかしコミュニケーションそのものをなくすことは通常できませんので、拘束しない形のコミュニケーションを取り入れることになります。つまりは非同期コミュニケーションです。
要は情報のやりとりや残し合いによって仕事が成立するように、やり方と考え方を変えねばならないのです。
もう一つ、忘れがちなのが委譲です。
そもそもコミュニケーションの量が多いと、どう頑張ってもフルフレックスは(フルリモートも)無理ですので物量自体を減らさねばならないのですが、そのためには仕事や権限を委譲せねばなりません。抱え込む誰かがいると、そこがボトルネックとなります。
これはかんたんなことではなく、たとえば以下のような考え方が登場します。
マネジメントレス
マネージャーなど管理職のいないあり方
脱階層
階層的ではない組織形態
チームワークという本番試合に頼り切るのではなく、ソロワークという練習・トレーニングにも頼ろうというパラダイム
フルアシンク
フルアシンク(Full Async)とは、同期的なコミュニケーションを基本的に行わないスタイルです。
会議はほぼない
フルアシンクの最大の特徴は、会議が無いことです。
非同期コミュニケーションですべて済んでしまうため、会議は不要なのです。
このスタイルは現代人でも魔法のように見えますが、上述したとおり、やり方と考え方を工夫すれば実現は可能です。あらゆる仕事に適用できるわけではありませんが、デスクワーク程度なら可能です。
現時点での実践例は皆無
可能と書きつつも、現時点で実現している例は皆無だと思います。
実現できるからといって実践できるとは限りません。やはりハードルは高く、以下があります。
1: フルリモートとフルフレックスがどちらも要ること
2: バインダーの対処が必要であること
まず前提としてフルリモートもフルフレックスも必要です。そもそもこの二つを実践すること自体が難しいでしょう。現代であっても、まだまだ仕事のやり方と考え方への理解と活用は甘いのです。だからこそ『仕事術2.0』があります。
次に、仮にやり方と考え方がわかっているからといって、いざ実践できるかというと、やはり難しいです。その主因としてバインダー(Binder)があります。
バインダーとは、非同期コミュニケーションを妨げる因子を指します。これが社内であれば、潰せば変えれば済みますが、社外の顧客やパートナーとなるとそうもいきません。もちろん、フルアシンクを薦めて取り入れてもらえるはずもありません。
ですので、バインダーとのやり取りを上手く吸収する必要があります。ビジネスでもすでに「壁役」の概念がありますし、ゲームでは「タンク」が、ソフトウェア開発でも「アダプター」といったものがありますが、同じような考え方の仕組みを実装することで組織内のフルアシンクを死守します。
またバインダーはウイルスのようなもので感染性があります。例外を許してしまうと、そこから非同期は壊れてしまいます。ウイルスを許さないための自浄作用も実装せねばなりません。
現代ではこれを行えるだけの理論やシステムはまだ開発されていないと思います。仕事術2.0としても、そのうち出したいとは思っていますが、フルリモートやフルフレックスですら中々実践されていない現状を見ると難しい(出しても意味がない)気もします。
通常は「技術」の力を要します。おそらく AI 人格が使えるようになって、AI とコミュニケーションを取ったり、あるいは AI 同士でコミュニケーションをしてその結果を後で教えてもらったりする方がまだ現実的でしょう。
同期に頼ることもある
すでにバインダーの件で見たように、フルアシンクといっても同期的なコミュニケーションに頼ることはあります。
ただし、全員が妥協するのではなく、同期的なやり方を担当する部分を局所化かつ最小化することが前提です。この徹底は難しく、自浄作用なるシステムを要します。
フルマスク
フルマスク(Full Mask)とは、素のアイデンティティ(容姿、性別、名前)を出さなくてもいいスタイルです。
容姿や性別や名前は、別に必須じゃない
すでに解説記事があるので、そちらに譲ります。
ここでも軽く解説しておきます。
私たちは仕事では素のアイデンティティ(容姿と性別と名前)を要求されましたが、そもそも本当に必要でしょうか?
答えは No です。
契約上や認証上は必要ですが、仕事の時でも常時晒す意味はありません。すでにアバターやハンドルネームなどは知られていますが、この考え方はもっと一般化できます。
それがマスクド・アイデンティティであり、必要に応じてダミーのアイデンティティを使えば良いとするものです。
本質は隠蔽
私たちが被る不便や被害は、素を晒すという部分から生じています。
時間や場所で拘束するのも、素のアイデンティティを要求するのも、どちらも素の状態と過ごしたいとする価値観から来ています。もちろん、コミュニケーションの便宜や信頼の醸成のためには必要ですが、あくまで一手段であって、絶対条件ではないのです。
実際に拘束はフルリモート、フルフレックス、フルアシンクなどによって突破できます。同様に、素のアイデンティティについても、フルマスクで破れます。
フルマスクの意義はここにあります。
拘束が諸悪の根源だと思われていたところに、素を晒す部分こそがそうではないかとの視座を与えたのです。これこそがパラダイムシフトです。新しいパラダイムのおかげで、様々なやり方と考え方を考え始めることができるからです。
これを公開パラダイムと隠蔽パラダイムと呼びます。
従来は公開パラダイムしかありませんでしたが、フルマスクにより隠蔽パラダイムが見えてきたことで、従来の方にも名前がつきました(レトロニムですね)。
おわりに
フルリモートとフルフレックスはすでに知られていますが、その先があるという点を示しました。
『仕事術2.0』では、このように現代にこそ通用する様々な仕事道具――やり方と考え方を紹介しています。本記事もその一つです。
他にもぜひ読み漁ってみてください。