プラングリ島での1週間
エストニアの首都タリンから、船で1時間ほど離れたところにプラングリという島があります。
縦6キロ、横3.5キロ、人口100人以下のとても小さな島です。
私は大学生の頃、この島に1週間滞在しました。
当時私は大学4年生で、単位は全て取り終わっていて、「折角まとまった時間があるんだし海外にでも行っちゃおうか」と考えていました。社会人になったら長期旅行は難しいから海外旅行は今のうちに、と周りの大人たちからも言われていました。
その旅で最初に訪れたのが、このプラングリ島。
なぜここにしたかというと、エストニアって、いわゆる「ど定番な観光地」ではないから、このあとの人生でも友達や家族と「エストニア行こう」とはならない気がして、それなら一人旅で行っちゃおうと思ったわけです。
しかも、せっかく一人で行くなら、観光客もあまりいないような都会から離れた自然豊かなところで、優雅に暇を満喫しようと思って、アイランド(島)にしました。
プラングリ島は、まず首都のタリンからバスで港へ行き、1日に3本ほどのフェリーに乗って、1時間ほどで到着します。
島の第一印象は、一言でいうと寂れている島という感じ。港にはカフェがポツンとあるだけで、そのカフェもオフシーズンで休業中...。
日本の商店街のシャッター街と近い雰囲気を感じて「あれ、これ大丈夫?」というのが最初の感想でした。
それでも、港に迎えに来てくれたホストおじさんが、車を降りるなり優しく微笑んでくれて、歓迎してくれる人がいることにほっと一安心。
お互い拙い英語で挨拶を交わして、おじさんの車で家へ向かいました。
そして、このおじさんの家が、子どもの頃に読んだ本で出てきたようなこじんまりと可愛い木造の家で、もう本当にどストライク…!
家の前には鶏小屋、その隣には野菜が植えられた家庭菜園があって、奥にシンボルマークのようなリンゴの木があるって、素敵すぎませんか…。
ドリームハウスの登場に感無量でした。
この島での一週間でやったことといえば、ホストマザーのおばさんと木の実を取ったり、取った木の実でお茶を作ったり(少し苦かった)、庭で捥ぎたてのリンゴを食べたり、ホストファミリーの子どもと追いかけっこしたり、海まで散歩に行って貝殻を拾ったり、畑仕事を少し手伝ったり。
見たもの、やったこと、食べたもの、すべてがこれまで憧れていてもので、小説の中に入っちゃったのかな、と本当に思うレベルでした。
子どもの頃から憧れていたような、小説の中のような生活はほんとうに素敵だった...!
けれど、私はこんな風な生活を味わえない自分にも気がついてしまって...。
プラングリ島はカフェもないし、美術館もないし、レストランもない。ないない尽くしの島だった。そして私はそれを求めてやってきた。
でも実際に過ごしてみると、早く首都のタリンに戻ってカフェ行きたいな、とか、あの美術館に行きたいな、このレストランにも行ってみたい、という風に、気づいたらネットで検索しちゃってるんですよね。
この島での生活を楽しめる力がなかったのだと思います。
当時は大学生だったので、社会人になることとか、その後のこととかもよく考えていました。
ただ、社会人になるのが嫌だなと思って早くリタイアして田舎で暮らしたいねという話を友達としていたけれど、よく考えれば田園の暮らしを味わう力もないのですよね。
私は多分、これからも田舎での夢の生活を語りながら、押し出されるまで会社員という言葉にしがみついて、ジタバタするのだと思います。
暇を楽しむ、暇に満足するって、結構むずかしいですよね。
ホストマザーがよく作ってくれたこの料理、美味しかったなあ。