『Inscryption』対戦ゲームの"敵"へ抱く敬意。
GG:Good Game(良い試合だった)の略。オンラインゲームで試合が終わったとき、互いの健闘を、そして試合の展開を褒め称えるときに使うスラング。このゲームを遊んでから、私はこの言葉に重い意味を抱いている。
この記事は『Inscryption』の一部ネタバレを含みます。未プレイの方は是非一度遊んで下さい。
『良い試合だった』
対戦ゲームでは必ず誰かが敵になる。足場から突き落とし、銃口を向け合い、ときには欺き合う。
そうしてゲームが終わったときに『GG』とチャットする。
相手の強さに、試合の競り合いに、そして試合をやり遂げた全員に送る敬意の言葉だ。たとえ殺し合う間だったとしても、ゲームが終わればいわゆるノーサイドだ。半ば手癖の挨拶になりつつあるが、それでも一緒に遊んでくれた顔も知らない誰かには、それなりの敬意を送りたい。
時折皮肉としてにこの言葉を使う輩も居るが、それはさておく。
『良いゲームだった』
上記SSは、2022年にGOTY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)を受賞した『Inscryption』の1シーンだ(一部加工)。
宿敵として立ちはだかる謎の男『レシー』。ざっくり説明すると、彼はいわゆる"ボス"であり、主人公と戦う"悪役"でもある。
主人公は彼とカードゲームを通して戦う。
彼はあくまでも『ゲームマスター』として公平に振る舞う。
そして主人公の勝利すらも認める。
そして、ゲーム終盤、勝ち負けすら分からない戦いの果てに主人公と握手を交わし、『良いゲームだった。(Good Game.)』と言い遺して消える。
なんと美しい、ゲーマーとしての散り際だろうか。
倒すべき敵は、同じゲームを愛するプレイヤー
対戦ゲームで敗北したとき、私は少なからずフラストレーションを感じる。ときには対戦相手への悪感情や、自分への劣等感すら感じるときもある。
しかし彼は、対戦相手は同じゲームを共に遊び、そして楽しんだもう一人のプレイヤーだと改めて気付かせてくれた。彼はどんな苦境に陥っても暴言を吐かなかった。敗北した主人公をなじることもなかった。
同じゲームを愛したプレイヤーとして、「良いゲームだった」と去っていった。彼の姿勢は、全てのゲーマーが見習うべき振る舞いではないだろうか。
レシーは確かにNPCで、倒すべき敵として創作されたキャラクターだ。
それでも私は、今でも彼を模範的なゲーマーとして尊敬している。