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卵子の成り立ち

日経サイエンス2023年10月号の冒頭に大阪大学教授の林克彦さんのことが掲載されていました。林さんは「卵子」を研究しています。今ではiPS細胞で卵子を無限に作り出せるようになっています。

2023年3月 ロンドン、「ヒトへのゲノム編集に関する国際サミット」で、雄マウスの細胞からiPS細胞を作り、それを卵子に分化させ、その雄マウス由来の卵子から子マウスを誕生させたことを発表しました。

これを人間に当てはめれば、男性同士のカップルが双方に血縁関係のある子を持つ可能性を示したことになります。

が、林さんは、そのことを目的としたのではなく「卵子」の謎に迫ることを目的としています。

林が取り組んでいること

卵子ができる全プロセスを解明すること。2016年にマウスのiPS細胞から卵子を作ることに成功し、この卵子を受精させて子マウスウを誕生させました。

自然卵子と比べると受精率は20分の1でした。

生殖細胞は、受精後の早い段階で「始原生殖細胞」へと独自の分化が始まる。マウスでは6.5日、ヒトでは16日目には始原生殖細胞が現れてくるそうです。

始原生殖細胞は、この時点では卵子か精子かは問わずに生殖細胞の元となる細胞です。アメーバのように移動して、将来、精巣や卵巣になる生殖巣に入り、そこで精子や卵子へと分化する。

雌雄どちらの始原生殖細胞の遺伝子を調べても区別が見つからないけれど、卵巣に入った始原生殖細胞は「減数分裂」という生殖細胞だけにみられる特殊な細胞分裂を始めるが、精巣に入ったオスの始原生殖細胞は通常の細胞分裂を始める。

始原生殖細胞を逆の生殖巣に入れると、それなりに卵子や精子にはなるが機能する卵子や精子にはならない。

卵子には2本のX染色体が必要で精子にはY染色体が必要であるから雄マウスの細胞から卵子を作るとY染色体があるため、iPS細胞を何回も分裂させてY染色体が抜け落ちた細胞を選び出す。そうした細胞を重複させてXX染色体にすることで卵子の形成に成功した。

「Y染色体が抜け落ちた細胞」ということが起きるのはiPS細胞だからなのか、自然においても起きることなのかは、そこについては書かれていませんでした。

卵子の老化

卵子に老化をもたらすメカニズムの候補として「コヒーシン」というタンパク質に注目している。

コヒーシン(こひーしん:cohesin)は、DNAに結合するたんぱく質複合体の一つ。細胞が分裂する際に、複製された染色体をつなぎとめる機能を果たす。

wikipedia

このたんぱく質が多くても少なくても細胞分裂のときに染色体がうまく2つの細胞に分配されなくなる。

誕生直後の女児の卵子ではコヒーシンが染色体をガチガチに束ねているが12歳くらいからいい具合にほどけてくる。ある年齢を超えると緩すぎる状態になってくる。つまり、妊娠・出産に適した年齢のころにちょうどいい具合になっている。

このコヒーシンと年齢の関係が解明されれば卵子の老化を防ぐことも可能になってくる。

卵子の変異

卵子という細胞は変異が少ない。

ヒトの細胞のゲノムは分裂を繰り返すたびにDNAの塩基配列は変異していく。その変異が癌や老化のもたらしているが、卵子の変異は少ない。変異が蓄積しやすい卵子を持つ生物種は進化したかもしれないがいずれは淘汰される。

では、なぜヒトの卵子は変異が少ないのであろうか。林さんは、そのメカニズムを解明したいと思っている。卵子では核のみならずミトコンドリアのDNAでも変異が少ない。ミトコンドリアはエネルギーを作り出す反面、活性酸素が生じやすいため変異が起きやすい。

林さんは、卵子では活性のおかしいミトコンドリアをはじく仕組みがあると考えている。iPS細胞で卵子を作り出せれば、そうした研究が進むであろう。

まとめ

2014年の本で岩波化学ライブラリーから「サバからマグロが産まれる」という本があって、そこでもヤマメにニジマスの始原生殖細胞を移植する言ことで、ヤマメがニジマスを生むことになる。この技術を使ってサバにマグロを生ませる技術を研究している人もいる。

その後、サバがマグロを生んだという話は目にしませんが、どうなっているのでしょうか?

とはいえ、林さんはiPS細胞で卵子を作る技術を確立している。東京海洋大学の吉崎さんは始原生殖細胞から精子と卵子を作ることでヤマメからニジマスを生ませるところまで来ている。

こうした技術が、人類の食糧不足の解消にもなるでしょうし、高齢出産のリスク軽減にもなっていくとは思われますが、「自然」からは乖離していくことでもあることは事実です。

それが「冒涜」なのか「福音」なのかは凡愚にはわかりません。


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