浮いたまま。
宙に浮いた。
1年前から心待ちにしていた
ライブがなくなり、
とうとう、
4年間つみあげてきた
卒業式までなくなった。
街には騒がしさを通り越して、
静けさが広がった。
マスクがなくなり、
トイレットペーパーがなくなった。
友達の卒業展示がなくなり、
友達との卒業旅行もなくなった。
スマートフォンが震える。
卒業式に着る予定だった袴の返金案内だった。
学校の案内で借りた袴は、
そのまま会場で着付けてもらい、
写真まで1日で撮れる日程だった。
その大事な1日がなくなり、
袴だけではなく写真すらもなくなった。
一番悲しそうな顔をしたのはお母さんだった。
思えば袴をかりるとき、
種類がなくなったら困るからと、
はやいうちに選びにいこうと
すすめてくれたのもお母さんで。
小振袖の上から何重にも袴を結び、
就活の疲れも相まって、
貧血で倒れながら選んだ、
ある意味すでに思い出深い袴だった。
その袴を着る機会はもうない。
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16年間の学生生活が終わる。
社会人の一歩を踏み出す。
卒業式はその大切な節目で。
学生時代の思い出を振り返り、
友達と涙する場でももちろんあるけど。
わたしの中で卒業式は、
人生の一区切りをつける、
けじめのような場であるのに。
卒業式は行われず、
紙切れたった1枚を受け取って、
学生気分も抜けないまま、
ふわふわふわふわ。
社会にでていってしまうのかな。
終わった実感も湧かないまま、
なんとなく働き始めて、
学生なのか社会人なのか、
自分の中でもはっきりしないまま、
ゆらゆらゆらゆら。
生きていくことになるのかな。
秋。