夜の飛行機の小さな明かりが 満月をゆっくりと横切ってゆく ビルの屋上レモン色のネオンの下 僕はひとりこの街を見下ろしている 夜の街の明かりは 寂しさと美しさをたたえている それが孤独なのか ささやかなよろこびなのか 僕にはわからない 僕は待っている ここでこうして・・・
わかったような顔してさ なんにもわかっちゃいないのさ 退屈って言いたいわけじゃないけれど なんとなくすべてがズレてるんじゃないかしら 昨日はあんなに輝いてた噴水も いまはなんだかまだるっこい 林檎が木の枝から落ちても 拾いに行かない それよりもっと大切なもの 誰も気づいていないから 私が見つけなきゃいけないもの いまはそれを見つけたときのことを考えてるの
いつからだろう 木漏れ日の射す白い広場で 空いたベンチにきみをずっと待っている 僕が思い浮かべるのは きみの肩にこぼれる光の粒たちと エメラルドグリーンの風を浴びて踊るきみ きみの横顔 きみの歌声 きみの涙のひと滴 きみの気持ちを知りたいけれど 僕はきみからこんなに遠い きみのくちもと きみのゆびさき そしてきみのやわらかさ 僕が書きたいのは詩じゃあなくて いつでもそんなきみのニュアンス
あなたに私が伝わる たしかに その瞬間 私は私の中のあなたを見失う けれど あなたは微笑んで あなたは たしかにそこにいて 私はあなたにはじめて出会う このだだっぴろい世界の中で
きみはどんな女(ひと)になりたいの 止まった時の中で 静かに微笑んでいる 夏の日のきみ きみの瞳は 僕の知らない どんな夏を夢見ているのか きみを知りたい夏の純真 初めての夏を抱くように 今 どんな思い出も きみの前で色あせていくよ
水たまりをのぞきこむ少女の後ろに広がるのは空 みずいろの空と流れる雲 ふしぎな顔して見つめている少女はあたし 空色の瞳と透き通る髪 雨が上がって空はみずいろ 長靴スキップはねて金色 オンボロ傘でも楽しい散歩 子犬の尻尾 ちょんとつついて 緑のベンチで待ってるあの子は 赤い風船 風にゆらして
正直になれないから 僕の朝はこんなにすがすがしい 小鳥の声が聞けるのは かれらの声が僕の嘘を知っているから 西の空の消えかけの氷のような三日月は 忘れかけの秘密のように心地よい そしてけやきの若葉を滑り落ちてくる 輝く日の光 朝の世界はあまりにすべてを素直にひろげて見せるから 僕の心は朝にまぎれて遠くへゆける
カーテンからは6月の朝の光 まぶしい あたたかい うれしい きっと世界でいちばん新鮮な光 雨上がりの空からの贈り物 けんかしたことも 苦しかった夜も コナゴナ 溶けて流れていっちゃうような 光のカケラが窓から部屋に降りそそぐ 光のカケラがわたしのひざにも降りそそぐ わたしはひだまりの匂いをぎゅっと抱きしめた メールにのせて届けたいこんな朝 Do you remember me ?
きみの肩とすれ違うとき フローラの風が香った 小走りのきみ 振り向くきみ 揺れる髪と花束が 透明な風のプリズムの中で交錯する ・・・・ きみは手を振って 僕は少しわらって またひとつ僕の記憶の印画紙に きみが静かに焼き付けられる きみを見てると いつも 薄黄色のリボンの優しさで 愛を確かめるけど どこかガラス越しの恋のようで 五月の風のせつなさで もっともっときみを確かめたくなる
四月の夕空から舞い降りてきたような 優しいギターの音色に包まれて あなたの歌は私の耳に届きます ――憶えていますか あなたはいつも不思議そうな眼をして 少女のように小首をかしげて 私を見つめる その頬に陽だまりのような 優しい笑みをたたえて 私は思わずうつむいて 何か言おうとして 何も言えなくて ただ あなたの歌声に耳をすませた ――あの日の夕暮れの空は 影絵のような並木の向こうに 思い出の色でいつまでも優しく続いていた
あすか きみは風に舞う花 夢見る 虹の雫 春のまどろみの中で 黄昏の霧の中で きみを愛した つかまえたくて つかまえたくても きみは いつも僕の腕からすり抜けて 風のように きらめいて 少女の眼でみつめている 愛している なんて言ったら笑うかな 好きって言ったら ふーんて言いそな きみの頬に触れる指のやさしさで 春色の風もとまどっているよ
春は藍。 雪解けの水 透き通る流れ 足先に触れる そのひやりとした冷たさに 早春の息はかおる。 春は藍。 移りゆく蒼い影 幻の笛の音 耳元にそっとふれては 去って行く そのこえに心を驚かす。 春は麗(うらら)。 水面に映る花の影 心に映る君の影 雪肌に添える小枝は薄紅 娘はいつも悪戯好き ――わたしを見ててね。
きみのてのひらに ひとひらのゆきのふる かぜのほころびに ふゆのひのかけらがおどる
憶えています あなたのことを マーケットからの帰り道 幼い弟を連れてあるいていたね 憶えています あなたのことを 誕生日に買ってもらった サッカーボールが大好きだったね 灰色にくすんだGazaの空 瓦礫の上に立てられた旗 硝煙と血の匂いのなかに 迷彩服のあなたを見つけた あなたは何をしているの 逃げ惑う人々に向ける銃口は 優しいあなたに似合わない 心を殺して従う指令は あなたの勇気に値しない ここはあなたがいる場所じゃない これはあなたがすることじゃない 戻ってお
天使の囁きよりもひそやかに 歩道の黒い並木の間を 通りすぎてゆけたらいいのに 誰にも知られず 喫茶店の錆びた看板の上には灰色の空 人肌の温もり恋しい木枯らしの空 街角では誰もが寒さに身をすくめているけれど 十二月の冬の匂いはあたたかい わたしのちいさなため息は 白い小さな綿毛のように だれも知らない冬の空へと消えてゆく 通りを行き交う人々のマフラーのように ささやかな幸福(しあわせ)を纏ってわたしは歩く あなたが暮らすこの街で
野ばらの花の散る頃に どうしてあなたはわたしを捨てた 思い出香る緑の丘で 秋桜の花の散る頃に どうしてあなたはわたしを捨てた 冷たい風の吹く朝に ただ一言も残さずに タンポポの花の散る頃に どうしてあなたはわたしを捨てた 風はあんなにまぶしくて 空はあんなに青かったのに アザミの花の散る頃に わたしの夢はあの日のままで どうしてあなたはわたしを捨てた