#1 ひつじのかげあそび
ひつじはつたない手で影遊びをしていた。
「あんまり明るい夜だから、こういうあそびがしたくなりまして」
だれかが問いかけたわけでもないのに、ひつじはひとりこたえる。
まるで人間を思わせるかのように腰を下ろし、前足を突き出して上手に影をつくりだした。とはいえ、偶蹄目の特徴であるふたつに割れたひづめでは、イヌやキツネを表現することができない。かろうじてつくることができたものといえば、上を向いた蛇くらいなものだった。
「わたしの前足が、もう少しいろいろな形をつくることができればいいのですが」
ふたたびひつじは宙に向かって返事をした。
ひつじのことをあわれに思ったのか、流れ星が空をすべりはじめる。ひとつずつが強い光を地上に投げかけ、そのまたたきはひつじに向けられていた。
流れ星たちは規則ただしく明滅し、ひつじの影遊びはまるでモノクロ映画のようになる。
「ありがとう、流れ星さんたち。わたしはいま、巨匠になった気分です」
ひつじは顔をわずかにそらして空に向けて感謝の言葉をつたえた。
ひとつの星が空を横切ることをせず、ひつじに向かって降り落ちる。糸のような炎をまとった星は落ち葉のようにひつじに近づくと、ゆっくりと自らひつじに毛に絡まってすがたを消した。
「あなたも探しているのですね。おやすみなさい。あなたのことを必要とする方が現れるまで、静かにおやすみ」
飽きたのか、振り子のように前足をおしだして四足歩行に戻ったひつじはゆっくりと夜に姿を溶け込ませていった。