水中花
ただ一本の水草は、気泡をいくつか吐き出した。酸欠気味の魚たちは、すがるように水草周りを回遊し本能により命を繋ぎ止める。
仄暗い部屋で煌々とひかる水槽は自然を切り出したというよりも、人間の美的感覚により作り込まれている。水草や岩の配置は目に見えるところに整理され、現実の鬱蒼とした水面の様子は軽視された。
未熟な主人は魚の目が白く濁っていることも知らず、ただその色合いに感動した。
「水草に集まる魚を見てごらん。まるで水中花のようさ」
揺れる水草の侘しさに美を感じる主人は、にこやかに水槽を眺めた。
ご清覧ありがとうございます。