よくわかるかもしれない、服にまつわる小噺 ~麻に関するあれこれ編~
1.「然らば多くの日本人は何を着たかといえば、勿論主たる材料は麻であった。」by柳田国男
ご来訪、ご観覧誠にありがとうございます。WOODY HOUSEの公文と申します。
WOODY HOUSE onlineにてメルマガを書かせて頂いていたり、メンズに纏わるなんやかんやのお仕事をさせて頂いたりしております。
以前は綿花を育てたりDANTONのブランド解説やボーダーに関するうんちくなどを書かせて頂いており、そちらの記事をお読みいただいた方のご記憶の片隅に欠片でも残っておりましたら幸いです。
※実はその後綿は無事いくつか収穫できたのですが、ハマキムシという虫食いの猛攻にさらされた綿花たちはとても写真でお見せできないほど痛々しい姿になってしまい、泣く泣く更新を断念しておりました…。ハマキムシ、断固許すまじ。
さて、前置きはこのくらいにして。本日は春夏の定番素材、麻について少しだけご紹介させて頂きます。
冒頭の「然らば多くの日本人は何を着たかといえば、勿論主たる材料は麻であった。」とは日本民俗学の祖、柳田国男氏の著書「木綿以前の事」からの引用です。
ざっくり解説すると、明治時代以前の日本人がメインで着ていたのは麻の服。文明開化以降、西洋文化の流入などの事情が絡み合って木綿(現代で言うところの綿)素材の洋服は飛躍的に増えていくわけですが、少なくともそれ以前の日本人は古より麻の服を着ていたようです。
…っとここまで書いたんですが、大丈夫でしょうか…?急に歴史っぽくなってちょっと嫌になってきてますよね?
いや、書いてる僕もなんだかちょっとアレな気持ちになってきたので、小難しそうな雰囲気の話はこの辺にします。
懲りずにもう少しだけお付き合いいただければとても嬉しいです。
2.よくある話。「麻」と「リネン」の違いとは?
はい。ということで皆様、麻とリネンの違いについて考えられたことはおありでしょうか?(知ってるという方も、できれば知らないテイでお読み頂けると助かります。じゃないと今後の進行が地獄になります。)
これ、お恥ずかしながら僕もかつては「麻を英語で言うたらリネンちゃうの?」くらいにしか思っていませんでした。
ところがどうもそう単純な話では無いらしく、麻って本当は20種類近い種類が存在するそうです。何故か脳裏にアンミカさんがよぎりましたね
以下に代表的な品種と、ご参考までに弊社取り扱いアイテムを列記すると…
亜麻:あま(リネン) pritのヨーロッパリネン天竺 裾ゴム ドルマンスリーブカーディガンや、solamonatpocheのリネンキャンバスなどなど。
苧麻:ちょま(ラミー、からむしなど) 最近発売されたsolamonatpocheのラミーシーリーズなど。
大麻:たいま(ヘンプ) ブランド名の通り、GO HEMPはヘンプとコットンの混紡生地をメインとしたプロダクトを展開しています。※ヘンプ100%のアイテムはありません。理由は後ほど…。
その他に多いのは
黄麻:おうま(ジュート) →カーペットの裏地、コーヒー豆の袋、導火線など。
マニラ麻:まにらあさ(アバカ) →船舶用のロープ、紙の原料(紙幣)など。
といった感じになります。気になる方は是非ググってみて下さい。
いかがでしょうか?同じ「麻」というくくりでも、種類によって見た目や風合いや用途は全く異なりますよね。
つまり「麻」とは総称であり、「麻」を分類すると「リネン」「ラミー」「ヘンプ」などに細分化されるわけですね。リネン=麻ですが、麻=リネンではありません。日本語って難しい
余談ですが、日本では「家庭用品品質表示法」という法律があり、日本語で「麻」と表記してOKなのは「亜麻」か「苧麻」の2種類のみとのこと。それ以外の麻はどうするのかと言うと、「指定外繊維(ヘンプ)」みたいな書かれ方をしています。是非お手持ちの麻の服の内タグを見てみてください。
こだわりの強いメーカーなんかはわざわざ「リネン」とか「ラミー」って書いてるところもあったり。無かったり。
そしてここからは更なる余談。
「麻」に分類されるとはいえ、大麻はクワ科、苧麻はイラクサ科、亜麻はアマ科など、植物としての分類は全く別。要するに人間とサルみたいな関係性です。
そして日本人は一説によると縄文時代には麻を原料とした衣服を着用していたとか、神事とも深〜い関わりがあるとか色んな情報が出てきますが、今回は割愛。
…どうしても服を掘り下げると歴史とリンクしてしまいますね。それくらい人類は衣服と共に歴史を歩んで来たってことで、どうか一つ。
3.じゃあ結局、麻の良さとは何ぞや?チクチクするだけちゃうの?
さて麻とリネンの違いについてお読みいただいたところで、ここからはよりアパレルっぽいお話です。皆様麻素材の特徴を思い浮かべてみて下さい。
夏物に多い涼感素材
濡れてもすぐ乾く速乾性
シワ感のある表情
ただひたすらに頑丈
着るとチクチクする
もちろん麻の種類によるものもありますが、ざっと挙げるとこんなところかなと思います。
ではその夏にぴったりな機能性。どういう理屈で生まれるか…というところまでは、ご存知でしょうか?
…はい、それでは僭越ながら解説させて頂きます。
麻とはそもそも繊維自体に毛羽立ちが非常に多く、これがチクチクの元になってしまいます。肌が弱い人は運が悪いと赤くなったりしますね。
とは言え毛羽立ちが多いということは、それ即ち表面積も多いということ。表面積が多いと、生地にした際に凹凸がたくさん生まれます。
凹凸が多ければ、それだけ肌への接地面積も少なくなります。つまり汗をかいても張り付きにくく、さらりとした着心地になりやすいという事。
逆に毛羽立ちが少ない化学繊維、たとえばナイロンの雨ガッパなんかを梅雨時期に着て汗をかく…という超絶不愉快なシチュエーションを想像して頂ければ、これがいかに重要な要素かなんとなくお分かり頂けますでしょうか?
また毛羽立ちや繊維の長さは種類によって異なるので、麻の中でも比較的繊維が短く細いリネン(亜麻)やラミー(苧麻)が特に衣服には使用されている、という背景もあります。
※前述のヘンプ100%が存在しないのは、そもそも着心地が残念なことになってしまうからというのも、理由の一つです。
↑
↓
みたいなイメージを持っていただければ幸いです。
そしてリネンやラミーは基本的に植物の表皮を剥いたすぐ下の柔らかい層、靭皮(ジンピ)を基に作られているので、繊維には水を通すための空洞が空いています。これはつまり繊維の中に水分が溜まりにくく、植物由来の吸湿性に加えて速乾性、放散性に優れるということ。花の部分を繊維に加工する綿には無い特徴の一つですね。
以上の特徴から、天然の機能性素材として夏物衣料にはひっぱりだこ。という寸法なわけです。
そのほかにも細かな特徴がまだありまして、
実は天然繊維の中で一番強靭。最強。
天然繊維の中でも熱伝導率が比較的高く、熱を奪って速やかに放散。=接触冷感というやつ。
他の繊維との親和性が高い上、混紡しても麻の特性は失われない。コットン×リネンの組み合わせにより、コットンならではの柔らかさ+リネンの機能性…みたいな事が余裕で出来ちゃう。
抗菌・防臭性に優れる(特にヘンプ素材)。
生分解性に優れる。天然素材だから土に還ります。
化学繊維でもここまでの機能はなかなかありまへんで、と言わんばかりの高機能。それでいて安くて成長が早いとなると、ある意味古来より日本人がほっとかない理由がありませんね。
というわけでたいへんざっくりですが、過酷な日本の夏でも麻が如何に適した素材であるか、ちょっとでも伝われば幸いです。
…が、今日はここで終わりではありません。もうちょっとだけ語らさせて下さい。
4.実は夏だけじゃない。四季を通して日本人を優しく包む、麻の世界
前述の通り「麻は夏に適した涼感素材」と表現しましたが、実は麻を使用した秋冬のアイテムって、意外とあるんです。弊社姉妹サイトにて取り扱い中の、Vlas blomme(ブラスブラム)がとても良い例ですね。
麻の繊維には空洞があり、これが放散性や速乾性に繋がる…というのは先ほど申し上げた通り。実はこの構造、防寒性も発揮します。
ダウンをイメージして頂きたいのですが、「ダウンは空気を含む量が多ければ多いほど、断熱して身体を温めてくれる」というのはなんとなーくイメージとして皆様ご存じかと思います。
ここでもう一度話は麻に戻り、構造的に空洞を持つ麻は繊維の一つ一つに空気の層が生じる為、これを重ねることにより空気の層が断熱の役割を果たします。要するに麻を原料に厚手の生地を作れば、それは秋冬用として成立するんですね。
そもそも肌なじみの良い素材なので、春夏に売られている麻アイテムを秋冬のインナーとして着たってまったく問題無いのです。むしろおしゃれだと思ってます僕は。
用法・用量に応じて、四季を通して日本人の身体を快適にしてくれる麻のハイポテンシャルっぷり。少しでも皆様に伝わりましたら幸いです。
というわけで以上、簡単ですが麻についてのお話でした。今後麻素材の洋服を見かけたら、また新しい視点と解像度でチェックしてみてもらえると嬉しいです。意外とリネンとラミー以外の麻も、結構使われてたりしますよ。
最後までお付き合い頂きました貴方の優しさに、多大なる感謝を!