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『薩摩ボタンとバックル』世界に唯一無二の小宇宙
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『Satsuma Buttons and Buckles 薩摩ボタンとバックル Stories About Old Japan』という本を拝読しました。大型本で358ページにおよぶ大著であり、著者は西田明子氏とナンシー・バンク・アレン氏であります。
この本は、薩摩ボタンというとても小さな世界のなかに
日本の自然や風景、桜や梅、藤やモミジなどの木々や、菖蒲や百合、朝顔、菊、椿などの四季折々の草花や
鶏や雉、鴛鴦(おしどり)や鷺(さぎ)、孔雀、ツバメ、鶴などの鳥、蝶々、蝉やカマキリなの昆虫、犬や猫、馬や猿、ウサギなどの動物、
平安時代の風俗、侍時代の武者絵、江戸時代の大名行列や駕籠かき、女性の髪型からちょんまげ、遊郭から花魁(おいらん)、舞妓、歌舞伎役者、義経や弁慶、赤穂浪士などの歴史上の人物、歌舞伎役者、日本宗教や儀式、祭礼など
ありとあらゆる日本の歴史や文化、風俗など網羅しています。
それはあたかも夜空に輝く星のようにそのなかに宇宙が存在しているかのようであります。
プロローグを読んでみますと、著者の西田明子氏は、1999年に薩摩ボタンという言葉をはじめて耳にしたとき、薩摩という名前から薩摩ボタンは鹿児島で作られたものではないかと思ったそうです。
その後、いろいろ学んでいくなかで、1867年のパリ万博で朴正官が金襴手の作品を出品し大評判を呼び、その後の沈壽官の活躍などもあり、海外では鹿児島以外の京都、大阪、神戸、金沢、名古屋、横浜、東京などで作られた金襴手の作品も薩摩と呼ばれるようになったことを知ったと語られております。
京都の京薩摩との関連では、京都の鍵屋安田家の安田浩人氏を訪れ、鍵屋安田家の作られた裏印のある薩摩ボタンを見出し、安田浩人氏も大いに驚かれたそうであります。
その後、西田明子氏は拙著『京都粟田焼窯元錦光山宗兵衛伝 世界に雄飛した京薩摩の光芒を求めて』を読んでくださったこともあり、プロローグのなかで、錦光山が京薩摩のもっともよく知られた窯元であり、六代・七代錦光山宗兵衛が様々な逸品を製造し海外へ輸出したことに触れてくれています。
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また、私が1988年にロンドンのクリスティーズで錦光山宗兵衛の作品に運命的に出会ったことなどを紹介してくれて、その後西田明子氏が私とコンタクトを取ったくれて、私も2018年6月に西田明子氏に初めてお会いいたしました。
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私は錦光山工場で薩摩ボタンを作っていたことを知りませんでしたが、西田明子氏は薩摩ボタンの画像を何枚かお持ちになってくださり、そのなかに錦光山の裏印のある薩摩ボタンの画像をいくつか見せてくださいました。また指輪に加工した薩摩ボタンを見せてくれました。これにより錦光山でも薩摩ボタンを製造していたことを明らかになったのであります。
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錦光山の裏印のある薩摩ボタンのなかで印象深かったのは、婦人が手にした巻物のなかに「明治37年9月26日之描〇」と書かれた薩摩ボタンがあったことであります。
この薩摩ボタンを作った陶画工は、なかなか茶目っ気があり、面白い発想をする陶画工だと思いますが、彼のお蔭で作成年月日が明確に残されることになったのであります。
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この本は薩摩ボタンを紹介している本ではありますが、先程述べましたように薩摩ボタンの意匠とともに、日本の自然、歴史、文化などありとあらゆる日本の森羅万象を英語で解説しており、図らずも日本文化を紹介する最良の書となっています。
私はこれまで英文で書かれた「SATSUMA」の本は、Louis Lawrence氏の『SATSUMA』と『SATSUMA The Romance of Japan』および『SPLENDORS OF MEIJI TREASURES OF IMPERIAL JAPAN MASTERPIECRS FROM THE KHALILI COLLECTION』が最高の本だと思ってきましたが、今回、西田明子氏とNANCY・BANK・ALLENの共著『Satsuma Buttons and Buckles』は、薩摩ボタンにフォーカスした、世界で類書のない、優れて日本の文化を紹介している唯一無二の書と評価したいと思います。
著者西田明子氏はアイリス美術館や鹿児島の白薩摩研究会などでいろいろ調査研究されたとエピローグのなかで述べておられますが、20年以上かけて薩摩ボタンの一つひとつの意匠を調査・鑑定して、これだけの大著に仕上げられたことに対しまして、大いにリスペクトいたしますとともに最大級の賛辞を送りたいと思います。
このような本を世に出してくださりましてどうもありがとうございます。
最後に358ページにおよぶ大著のカバー裏に3つの薩摩ボタンの画像が掲載されておりますが、なんとその3つの薩摩ボタンは錦光山製の薩摩ボタンだそうであります。
西田明子氏によりますと、それらのボタンはお正月の様子が描かれたものであり、薩摩ボタンといわれるもののなかで最高傑作に入るものだと称しておられます。
確かに子どもたちが無邪気に遊ぶ様子がとても生き生きと描かれているのではないかと思われます。
このようにカバーに錦光山製の薩摩ボタンを使っていただき、誠にありがたく、心より厚く御礼を申し上げます。
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