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森を開拓するのだ(思いついちゃった篇)
未活用材専門の木材屋さんになると決めたわけだが、どこか定期的に買ってくれるあてがあるわけでもなく、僕が飛び込み営業をしても仕方がない。
当時はWeb制作会社をやっていたこともあって、販路はECサイトと決めていた。
でも、最初に手をつけたのはECサイトをつくることではなかった。
未活用の木材を販売するプロジェクトをはじめるにあたって、大切にしたいなと思っていたのは「ただECサイトをつくって運営することはしない」ということ。
未活用材は一般に流通している木材よりはリーズナブルなことが多い。
でも「安いから買いたい、使いたい」という動機だけをめがけて活動したいなとはどうしても思えなかった。
それに未活用材にはクセがあることが多い。
安いから使おうという気持ちだと「安かろう、悪かろう」というニーズに向かっていくことになってしまいそうで、それが嫌なのもある。
自分が未活用材に可能性を感じたのは、未活用材に光をあてることによって「ものを自分でつくってみたい」とか「ほんとは家にもっと木をつかってみたい」というDIY好き・建築好きの個人や、「ほんとは木をつかった提案をしたいけど規格材を使うとありきたりになってしまうし、そのわりに予算も膨らむしなぁ」などと悩んでいる建築家の方々にとって、新しい選択肢になるだけでなく、クリエイティビティが刺激されて創造が拡がってゆくのではないかと思ったからだ。
自分自身がまさにそうだった。
未活用材に出会ったことで、どんどんDIYにのめりこんでいったし、未活用材の活用を考える中で建築家や、建築関係の方々との出会いもたくさんあった。
なかでも一番大きかったのは、「木を使ってものをつくることのハードルが極端に下がった」ことだと思う。
例えば都市部に住む人にとって、木でなにかをつくりたいと思ったときの心理的・物理的障壁はかなりのものではないだろうか。
都市部にはホームセンターはなかなかないし、入手できる樹種や形状は限定される。
頑張っていろいろ探してきたとしても、高い木材だと加工も失敗できない。
でもこちらはほとんど木材加工を経験したことのない素人、最初からうまくいくはずもない。
僕自身も東京に住んでいたころは、立米単価100万円を超えるような値段で木材を買って、いかにも頼りない道具と技術でものをつくりはじめては、うまくいかずストレスを溜めていた。
未活用材に出会ったことで木でものをつくることが楽しくて仕方がなくなったし、口ではうまく言えないが、心の底からワクワクした。
そして、未活用材を知り合いの建築家たちに紹介してみたところ、とても喜んでくれただけでなく、建築家ならではの視点で新たな使い途を見出してくれたりもした。
未活用材の使い途を考えることは、厳しいビジネス環境やウッドショックにあえぐ木材屋さんにとっても想像をうわまわるくらい良い影響を与える可能性があるし、ひいては環境問題の解決の一助になるかもしれない。
そんなことに加えて、なによりも僕がやりがいを感じているのは、誰もがつくり手になれる可能性をひろげてくれるのではないかということだ。
未活用材には実験的な使い方を受け入れる包容力があると思っている。
そう考えたときに、未活用の木材の活かし方を実験するための場所がほしいと思った。
机上でああだこうだとあるべき論を述べていても未活用の木材は一向に減らないし、自分たちがそもそも活用していないものを人に活用してもらうだけというのも違うと思った。
もう少し言うと、「活用の仕方を提案する」というのも、なんだか少し違うと感じてもいる。
未活用材が持つ包容力というか、クリエイティビティを刺激する感じを、いま現在いちばん感じているのはたぶん自分たちで(思い込みだけど)、そんな自分たちが未活用材に踊らされて、ものづくりがどんどんエスカレートしていくさまを紹介するなかで、「自分もやってみたい」と感じてくれた人に未活用材を使ってもらえればと思ったのだ。
それともうひとつ。僕は建築家や建築関係の人たちと一緒に未活用材の使い途を実験したいと思った。
そもそもなぜ未活用材が発生するかというと、前に少し触れたように、いわゆるちょっとした不具合(反り、曲がり、節抜け、割れなど)もあるが、それに加えて規格の問題もある。
欧米規格だと2x4(ツーバイフォー:38mmx89mm)や2x6(ツーバイシックス:38mmx140mm)という断面サイズであることが求められるし、日本だと三寸角(90mmx90mm)や四寸角(120mmx120mm)などといった規格に則った材でなければならない。
ここから1mmでも太かったり、細かったりすると、「規格外」となってしまい、途端に売れなくなってしまうのだ。太い場合はまわりを削ればよいのでまだ活かしようがあるが、細い場合はどうしようもない。
そして建築現場は、3mもしくは4mの材を好む。
もちろんそれが効率がよいからという理由はあるのだが、実はほぼ無意識にというか、ほぼ何も考えずに3mや4mの材を指定して買っている。それによって3mより短い材や、4mよりも長い材というのは極端に嫌われる。ほとんど見向きもされないのだ。
だから1200mmなんていう素人感覚としては長い材がデッドストックとして積み上がってしまっている。
こういったことは、建築・建設が産業化されていくなかではやむを得ない事情だし、産業全体としては確かに生産性は上がっていると思う。
ただ、こういった効率化の波からはじき出されたものは、ほとんどの場合未活用材としてデッドストックになってしまっているのが現実なのだ。
では、こういう材は価値がないのだろうか。
ためしに知り合いの建築家に紹介してみたところ、見事なまでに未活用材を建材として使いこなしてくれているではないか。
この「建材として」がとても大切だと感じている。
元々は建材として生産された木材。違う用途を見つけてゆくことももちろん大事だが、できうることならやっぱり建材として使ってもらいたい。
僕個人の問題意識は、本来価値あるはずの建材が、価値のないものとされていること、見向きもされない状態であるということの理不尽さにあるのだと思う。
そしてその理不尽を飲み込んでいるのは木材会社だ。
木材会社は、規格外になってしまうもの、不具合があって二等材とされてしまっている材も含めて木材を仕入れている。多くの場合仕入れ単価は同じだ。
その分普段売っている材に値段を上乗せすればいいじゃないかと思うかもしれないが、全てを吸収できるわけではない。相場というものがそれを許してくれないからだ。
未活用材は木材会社の収益を圧迫しつづけている。
規格外やちょっとした不具合のある材は「建材じゃない」と言われる理不尽を、収益を削りながら受け入れざるをえない木材会社にとって、「違う用途もあるよ」という声は解のようでいて、解ではないように僕には思える。
なんか理不尽が解決していないように感じるのだ。
でも建築家ならその理不尽にひとつの解決策を出せるかもしれない。
未活用の木材に建材とは違う用途を見出すのではなく、建材として使い尽くす道を示してくれるのではないか。
すでにいくつかの物件において、建築家による未活用材の活用は始まっている。
しかし、活用された物件は全国に散らばっているうえに、個人の住宅だったりもするので、なかなか直接目にすることができない。
ただ使われていくだけでなく、使われた様子をきちんと見られるようにしたい・・・。
と、そんなわけで建築家と一緒に未活用材を使った小さな建築物をつくったり、自分たちが未活用材をつかったものづくりをできる場所が必要だと思ったのだ。
そこで自分が住む軽井沢の近くで、建築家と一緒に小屋をいくつも建てられるような、そしてある程度の木材をストックできる場所を探すことにしたのである。
そんなわけで、未活用材のビジネスをはじめるぞと思い立った僕が、まず取り掛かったのは、ECサイトをつくることではなく、極めて限られた経済状況の中で、自由に使えるだだっぴろい場所を探すことだった。
<つづく>