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従業員が50人以上の事業所で発生する労働法令上の義務

従業員が50人以上になった事業場には、労働安全衛生法や労働安全衛生規則によって定められた義務として以下の6つの対応が求められます。
①    休養室または休養所の設置
②    産業医の選任
③    衛生管理者の選任
④    衛生委員会の設置
⑤    ストレスチェックの実施
⑥    定期健康診断結果報告書の提出

また、業種によっては以下の2つについても義務として定められています。(今回の記事では詳細は省略します。)
・安全管理者の選任
・安全委員会の設置

一つの事業場だけで従業員数が50人以上になった、もしくはもうすぐ50人以上になりそうな段階で、必要な準備をしていきましょう。

【参考】
労働安全衛生法上の事業場の考え方(昭和47年9月18日発基第91号)https://okayamas.johas.go.jp/wp-content/uploads/2022/06/s470918k91.pdf

愛知労働局「安全衛生管理体制について」
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/000710905.pdf

①   休養室または休養所の設置

常時 50 人以上又は常時女性 30 人以上の労働者を使用する事業者は、労働者が横たわれる休養室又は休養所を男性用と女性用に区別して設ける必要があります。(労働安全衛生規則第618条)。
休養室又は休養所では体調不良の労働者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況等に応じた配慮が求められます。
・入口や通路から直視されないように目隠しを設ける
・関係者以外の出入りを制限する
・緊急時に安全に対応できる 等

【参考】「ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました」https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000905329.pdf

②   産業医の選任

常時50人以上の労働者を使用する事業場(すべての業種)は、産業医を選任しなければなりません。
産業医は、以下のような職務を行うこととされています。
(1)健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。
(2)健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
(3)労働衛生教育に関すること。
(4)労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
また、産業医はこれらの活動に加え、月に1回の職場巡視や衛生委員会への参加、長時間労働者に関する情報の把握が必要であり、これらを通じ労働者の実態と現状を知ることでより適切な健康管理等を行うことができます。

産業医は毎月1回あるいは2ヶ月に1回、作業場の巡視をすることが定められています。作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じます。
また、産業医は総括安全衛生管理者に勧告、衛生管理者に指導や助言を行えます。
事業者は、産業医に対して健康管理を適切に行うために情報の提供が必要です。

産業医選任に関する義務
産業医選任に関する義務は、労働安全衛生法、労働安全衛生規則により以下が定められています。
・従業員が50名以上になったら14日以内に遅滞なく労働基準監督署に選任届を提出すること
・少なくとも毎月1回の職場巡視をすること

労働者が50人以上の事業場では、事業者に産業医を選任することを義務づけています。
また労働者数が50人未満の事業場でも医師等にその役割を担わせることを努力義務としています。
なお、1,000人以上の大規模事業場などでは専属産業医を選任することが必要です。

選任届は、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」の用紙に記入して、労働基準監督署に提出します。

参考:厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」
https://www.mhlw.go.jp/content/000743322.pdf

初めての選任では、毎月職場に訪問することを前提とすることが推奨されます。
また、原則として毎月1回の職場巡視が必要とされていますが、衛生管理者による巡回を週1回実施し、産業医に情報を共有することで、産業医の巡回を2ヶ月に1度とすることも可能です。

【参考】産業医について~その役割を知ってもらうために~https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103897.pdf

③   衛生管理者の選任

衛生管理者は、労働者の健康被害を防止するためのさまざまな活動を行う担当者です。
ここでは、衛生管理者の選任に対する法的義務や選任しなければならない数などについて簡単にまとめておきます。

衛生管理者の職務
衛生管理者は、従業員の労働環境に目を配り、衛生に関する事項を管理することが職務です。従業員に怪我や病気が発生しないよう、安全管理を行うことが目的です。
具体的には、以下のような内容を実施します。
・従業員の健康への異常を防止するための措置
・作業環境や道具の衛生上の調査・点検
・従業員の安全や衛生のための教育の実施
また、少なくとも毎週1回、労働環境を巡視する必要があります。設備や作業方法、衛生状態に問題がある場合は、従業員の健康を守るための措置を講じなければなりません。
オフィスだけでなくトイレや休憩室など業務と関係ない部分でも、衛生環境の調査や改善が求められます。
その他には労災が発生した際、医療機関と迅速に連携し従業員が治療に専念できるよう努めなくてはなりません。

衛生管理者の選任に関する義務
衛生管理者は、職場で雇用する従業員が常時50名以上になると、法的に選任の義務が発生します(労働安全衛生法第12条1項)。
衛生管理者として選任されるためには、誰でも良いわけでなく、衛生管理者に選任されるためには業種に応じた資格が必要です。
[業種]
農林畜水産業、鉱業、建設業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業
[資格]
第一種衛生管理者免許若しくは衛生工学衛生管理者免許又は医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、厚生労働大臣の定める者

[業種]
その他の業種
[資格]
第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント、その他厚生労働大臣が定める者

衛生管理者は、選任すべき事由(常時雇用している従業員が50人以上になった日)から14日以内に選任し、選任報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。

選任しなければならない衛生管理者の数は、常時使用する従業員数に応じて変わります。
・50人以上~200人以下 1人以上
・200人超~500人以下 2人以上
・500人超~1,000人以下 3人以上
・1,000人超~2,000人以下 4人以上
・2,000人超~3,000人以下 5人以上
・3,000人超 6人以上
衛生管理者はその事業場の専属でなければならず、たとえば支店や営業所など、同じ会社の中でも兼任はできません。
ただし、2名以上の衛生管理者の選任が必要なケースで衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいる場合は、1人は非専属で問題ありません。

【参考】職場あんぜんサイト 安全衛生キーワード「安全管理者」

④ 衛生委員会の設置

常時50人以上の労働者を使用する事業場は、労働安全衛生法第18条および労働安全衛生法施行令第9条により、安全に関する事項を調査・審議する衛生委員会を設けなければなりません。

衛生委員会の設置・運営に関する義務
衛生委員会の設置は法的義務であり、以下の項目が定められています。
・衛生管理者の選任
・毎月1回以上の開催
・議事録の作成・周知・保存

衛生委員会は、毎月1回以上の実施が義務付けられています(労働安全衛生規則第23条)。
衛生委員会には産業医の同席が望ましいため、職場巡視の日程と合わせるとよいでしょう。
厚生労働省では、衛生委員会の調査審議事項として、以下の例を挙げています。
(1)労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
(2)労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
(3)労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
(4)前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項

議事録については、従業員がいつでも見られる場所への掲示やファイルの保管が推奨されます。衛生委員会における議事録は、3年間の保存が義務付けられています。

【参考】職場あんぜんサイト 安全衛生キーワード「衛生委員会」

⑤ ストレスチェックの実施

ストレスチェックは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。

労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。

ストレスチェックの実施に関する義務
ストレスチェックは、常時50人以上の従業員がいる企業においては毎年1回の実施が義務となっています(労働安全衛生法第66条の10)。また、ストレスチェックや面接指導で個人の情報を取り扱った者(実施者とその補助をする実施事務従事者)には、法律で守秘義務が課され、違反した場合は刑罰の対象となります。
さらに、ストレスチェック制度、とくに面接指導の申し出をしたことを理由として不利益な取り扱いをしてはならないことが法律に規定されています(労働安全衛生法第66条の10第3項)。

ストレスチェックの対象者は、以下のすべての要件を満たす従業員です。
(1)期間の定めのない労働契約により使用される者
(2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

なお、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満である短時間労働者であっても、上記(1)の要件に該当し、1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である労働者に対しては、ストレスチェックを実施することが望ましいとされています。

ストレスチェックの実施者と実施事務従事者になれるのは?
ストレスチェックの実施者とは、ストレスチェックを企画し、結果の評価をする者を指します。医師、保健師、看護師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師、精神保健福祉士などが担当しますが、事業場に該当者がいない場合は外部委託も可能です。
ストレスチェック制度の実施事務従事者とは、実施者の補助をする者です。質問票の回収、データ入力、結果送付など、個人情報を取り扱う業務を担当します。
産業医が実施事務従事者になることもありますが、以下の場合においては従業員が実施事務従事者になり得ます。
・人事権のない人事課の従業員
・人事権のないその他の部署の従業員

【参考】厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf

⑥   定期健康診断の結果報告書提出

労働者に健康診断を受けさせるのは、従業員数を問わず使用者としての義務です。
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行なったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書(様式第6号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第52条)。

健康診断の義務
労働者に対する健康診断は、雇い入れ時のほか、基本的に1年に1回の定期健康診断を受けさせる必要があります。
1年以上雇用している、またはする予定の労働者が1人でもいる事業者では必ず実施しなければなりません。
パート、アルバイト等の雇用形態にかかわらず、下記①・②の両方を満たす場合には健康診断の実施が必要です。
① 1年以上の長さで雇用契約をしているか、または、雇用期間を全く定めていないか、あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績があること。
② 一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であること。

社会保険適用拡大
2024年10月からは従業員数51人以上の企業でも対応が必要となります。
新たな加入対象者は、以下のすべてに当てはまる人となります。
・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・月額賃金が8.8万円以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない

【参考】年収の壁・支援パッケージ


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