恐縮ですが、育児中。 《7》 旅行
旅行は、お好きですか?
お金が許せば「贅沢は素敵だ!」と高級ホテルに泊まって、豪勢な食事に舌鼓を打つのも良いでしょう。
お金が無いならバックパック背負って、安宿や屋台を巡る貧乏旅行だって楽しいものです。
未知の世界を開拓する冒険の旅も良し、日頃の疲れを癒す休養の旅もまた良し。
ところが子連れの旅となると……突然これが、何かの罰ゲームのような苦行の連続になってしまいます。
それは出かける前から始まります。
荷物のパッキング。
乳児の頃は、とにかく荷物が多い。粉ミルクと湯沸かし装置、着替え一式と予備の衣類、そのまた予備。ひまつぶしの玩具に絵本。そしてオムツ……。
紙オムツって実にかさばるのですが、いつものサイズのいつもの品を旅先で入手できる確率は、砂漠に落とした針を探し当てるほど低い。
旅の途中で無くなったら一巻の終わり。「汚染物質がメルトスルーしてしまう!」という無限の恐怖心から、つい大量に持参してしまいます。
結果、むやみに重くなったトランクの中身は、全て子どもの品。自分自身のオシャレ用に着替えを持参するスペースなど、どこにもありません。
それでもまだ乳児ぐらいの年頃の方が、列車や飛行機などの長距離交通機関ではラクだったりします。
問題は、中途半端に成長して、自走式の年頃となった幼児。
とりわけ男子の場合、座席にじっと座らせておくのは、至難の業です。
そこをなんとかしのぐため、絵本だ、お菓子だ、新しい玩具だ、スマートフォンのアプリだ…… と、ネタを大量に用意し、グズり出すタイミングを見計らって小出しにしていきます。現地に着くまで、ずっと。
したがって、自分自身がのんびり読書したり眠る時間など、あろうはずがありません。
こうして疲労困憊のまま、旅先に到着した身としては、とりあえずホテルのベッドに体を横たえて、ひとまず休息でもしたいところですが…
現実には「さあ、さっそくどこかに連れていけ!連れていけ!連れていけ!」と執拗な飛びヒザ蹴り攻撃や、チョップ攻撃を受けまくり。
その結果、眠い目をこすりながらネット検索でアミューズメント施設を探し出し、重い足を引きずって向かうしか選択肢はないのです。
また子連れの場合、食事もオシャレな高級レストランに入ることはかなわず。
逆に、せっかくだからトライしてみたい現地の屋台メシなども、抵抗力のない子どもが食中毒や感染症にかかって救急搬送される絵ヅラが脳裏をよぎり、あきらめざるをえない。
結局、現地のコンビニで買った日本でも売ってそうなサンドイッチを、ホテルの部屋にこもって食べるだけだったりして。
そこまでして、なぜ旅に? と言われそうですが。
子どもなんて、もうちょっと成長したら「オヤジと旅?行くわけねーだろ!」と反抗し始めるに決まってます。親が主導権を握っている今しか、一緒に旅するチャンスはないのです。
そう考えれば「苦行のような旅」も、貴重で味わい深いものに思えてくるというもの。
なんのことはない、子連れ旅って結局、親の自己満足のための旅なんですよね。
まったくもって、恐縮です!
明和電機ジャーナル 第18期 第1号 (2011年5月15日発行) 所収, に加筆修整