恐縮ですが育児中! 〈14〉 時間
ミヒャエル・エンデの『モモ』という小説に「時間貯蓄銀行」なる組織が出てきます。人々はこの銀行に時間を奪われ、多忙になりすぎて心の余裕を失う……という物語でした。
しかし今の当方は、そんな銀行があったらむしろ契約したい。
時間を預けて利息を稼ぎたいわけではありません。逆です。老後の自分から時間を借りまくりたいのです。
育児経験者なら同意して下さると思いますが、なにしろ子どもが小さいと、親には自由時間など皆無。
子どもは究極の自己チュー。正真正銘のかまってちゃん。
常に自分が注目の的でないと気が済まない生き物ですから、「こっち来て!」「見て!見て!」と、親の視線を独占する事に命を賭けている。
まあ実際、それぐらい気でもひいてもらわないと、当方のようにウカツな親は食事の支度すら忘れかねません。
「ぼく、ひとりになりたいの……」なんて言ってるクールな性格だったら、うちなんか「あ、じゃあひとりでどうぞ」と放置されて、数日以内に餓死確実。
って、ネグレクトか!
そう考えると子供特有の独占欲も、彼らなりの生存戦略と思えてきます。
そうはわかっていても、徹夜明けで意識が混濁している時に「お絵描きするから見て」と強制的に注目を強いられ、ウトウトと瞼が閉じそうになるたびに「ほら起きて!ちゃんと見て!」とカン高い声で恫喝されると、さすがにキレそうになりますけどね。
一体これは何の罰ゲーム? 俺に何の罪が? いや生まれつき原罪を背負っているのだ、人間は。そもそも人間のはじまりはアダムとイヴがリンゴくぁwせdrftgyふじこlp…………「パパ!起きて!」「ハッ!」(目を開ける)
また時間と言えば、約束の時刻を守ることも、子連れ人にはなかなか難しいものです。
外出直前の時間がない時に限って「やっぱりオモチャ持って行く!」などと言い出し、 大人の目には積み上げられた瓦礫にしか見えない玩具の山をひっくり返して、じっくりと検分を始めてしまう。
「トイレは大丈夫?」と訊くたび「だいじょぶ!」と答えていたくせに、電車に乗り込んでドアが閉まった直後に「やっぱりオシッコ!」と言い出す。そんな時に限って駅を飛ばしてなかなか停まらない通勤快速だったりするから、鉄道ダイヤを組んだ人間を逆恨みするしかない。
絶対に外せない大事な仕事の日。「この日だけは熱を出さないでほしい……」という思いが悪い意味で天に通じたかのように、子供はしっかりと発熱。
と、まあ、本人に自覚は無いにせよ、親が描いた計画をことごとく妨害してくれるのが子ども。
だからこそ、と言うべきか。やはり同じように子どもがいる人って、時間に関して比較的寛容にかまえてくれるんですよね。
連絡なく待ち合わせに30分遅れても「出がけに何かあったんだろ」「メールも打てないぐらいバタバタしてるのね」と解釈し、気にせず待っていてくれる。ありがたや。これが大人の余裕というやつか。
しかし、そんな周囲の優しさに味をしめてしまい、子どもに関係なく親自身のルーズさがエスカレートしてしまいがちなのも事実。
「うちは子どもがいるから2時間や3時間ぐらい遅れたって仕方ないよね? もうちょっと寝ていよう」などと、最近では親……つまり当方自身が、どんどん非常識な人間になってきている気がしてなりません。
まったくもって、恐縮です!
明和電機ジャーナル 第19期 第2号 (2012年7月15日発行) 所収, に加筆訂正
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