あの日の記憶-11’09”01/セプテンバー11-
2001年9月11日から、もう7年が経った。
あのとき私は社会人3年目で、名古屋の独身寮に住んでいた。
寮のお風呂とトイレは共同で、個々の部屋は単なる窓付きの箱だった。
その夜、お風呂からあがって部屋に戻り、テレビを点けたら、奇妙な映像が映っていた。
二棟の高層ビルが立っていて、その一棟から煙が上がっていた。
「NY世界貿易センタービルに航空機が衝突」
画面の右上に、そういうテロップが出ており、その状況を描写するナレーションが重なっていた。
最初は、航空機事故だと思った。
旅客機が、マンハッタンの象徴とも言うべき重要な建物に衝突するなんて、とんでもない事故だと思った。
そんなこと、本当に起きるんだろうか。
偶然なんかで説明がつかない話だ。
そう思っている矢先に、2機目の飛行機が画面右上のあたりから現れたかと思うと、もう1棟のビルに突っ込んだ。
テレビ画面を見ていた、その場で突っ込んだのだ。
事故じゃない。
事故じゃない、これは。
咄嗟に理解して、言いようのない恐怖が湧いてきた。
胸がざわつく。
何か、とてつもないことが起きている。
一体、誰がこんなことするんだろう。
一体、こんなこと、誰が思いついたんだろう。
異様すぎる光景に身の毛がよだつ。
その異様な光景が、何度も何度も、何度も何度も、テレビ画面で繰り返される。
「これは、現実の映像です」
キャスターの言葉も異様だ。
異様な言葉も繰り返される。
ビルに近づいてくる飛行機を、マンハッタンの多くの人が頭上に見たはずだ。
轟音を上げて迫り来る、巨大な影。
空港の近くで低空飛行する飛行機が、墜落するわけではないことを分かっていてさえヒヤヒヤするのに、まさかまさかと思っていることが、目の前で現実に。
どんな映画にも似ていないと思った。
現実はあくまで淡々として、そして背後には激しい憎悪が逆巻いている。
映画よりも、現実はずっと恐ろしい。
それから、ペンタゴンとキャンプ・デービッドでも、飛行機が墜落したというニュースを聴いた。
やがて2棟のビルが崩落した。
すべて、寮の部屋に置いていた、小さなブラウン管テレビの画面で見たことだ。
たぶん、私と同じように、世界中の人々がその光景に釘づけになっただろう。
アメリカという国で起きたことだけれど、それだけで片づけられることではなかった。
誰が誰の敵だったとしても、誰が誰の味方だったとしても、あらゆることは人間から生まれて人間に襲いかかる。
それは、かたちもなく、言葉にもできない。
情報化された現代において、「September11」というキーワードは、世界中の人々が同時にその瞬間、その恐怖と悲しみを共有した、明確な歴史の新局面だった。
あの日から7年の間に、September11を映画化した作品はいくつもある。
「華氏991」「ワールドトレードセンター」「ユナイテッド93」などは、アメリカ人が制作したアメリカ人にとってのSeptember11だ。
事件の裏側を暴こうとするドキュメンタリーであったり、プロパガンダ映画と見る嫌いもあるヒューマンドラマであったり、いずれの側面であるにせよ、あの衝撃的な出来事を、恣意的な演出で安っぽい涙や怒りに変えてしまうことには抵抗を感じる。
ましてや、それらの映画が政治的な意図で利用されることには、特別な警戒が必要だ。
一方で、その瞬間の人々の記憶と感情を、共有できるかたちで残していくことには、大きな意義があると思う。
それは、アメリカ人にとってだけでなく、アラブ人にとっても、日本人にとっても、どんな人にとっても。
11カ国11人の映画監督による11編の短編オムニバス作品「11’09”01/セプテンバー11」は、事件からわずか1年後、2002年9月11日に公開された。
事件の当事者であるアメリカだけでなく、イスラム教の国であるイランやエジプト、内戦に傷ついたボスニア・ヘルツェゴビナ、唯一の被爆国である日本、日常的にテロの脅威にさらされる国イスラエル。
さらに、フランス、ブルキナファソ、イギリス、メキシコ、インド、各国の監督がそれぞれの視点で、September11から得たインスピレーションを自由に映像化している。
ただ一つのルールは、長さが11分9秒1フレームであること。
生きていることの喜び。
報復の報復。
子どもたちのビンラディン探し。
メディアの身勝手。
自由の国への怒り。
事件の傍らにある穏やかな生活。
狂気の世界。
描かれているものは、テロの悲惨さよりも、それに直接的間接的に巻き込まれていく様々な人々。
そのときニューヨークにいた人も、そうでない人も。
あのとき、何を感じたか。
たぶん、何か感じた。
それを、ずっと忘れない。
11’09”01/セプテンバー11 11’09”01September11(2001年・独/英)
監督:サミラ・マフマルバフ、クロード・ルルーシュ、ユーセフ・シャヒーン他
出演:マリヤム・カリミ、エマニュエル・ラボリ、ヌール・エルシェリフ他
■2008/9/11投稿の記事
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