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大人×コーヒー

きっと僕らは大人になる。
仕事へ向かう日の朝、コーヒーを淹れる。
美化された思い出はドリップされて
マグカップの中に旨みとして抽出される。
僕らに残されたものは、
濾過されなかった不純物だけだ。
それが大人だ。

社会人4年目。
配属された部署の知識も深まり
人から質問されてもそれなりに答えられる。
作業も順調に進む。
残業は増えていく一方で
夜空に浮かぶ星と月、車のテールランプに
労われながら帰路に着く。
会社の窓から1日が移り変わる様子と
切り取られた夕陽を何度眺めただろうか。

好きなことを仕事に。
やりたいことを仕事に。
そんな多様化していく社会の中で
それに該当することもなくせっせと働く。

ドラえもんが実在するとすれば
もしもボックスを使って
いろんな可能性を試すし、未来を見にいくし。
けど残念ながらまだドラえもんはいない。

でっかいことを夢見たとしても
実際は地味な作業の積み重ねなのだ。
少しずつを繰り返し、振り返った時に
“何か”になっていて
あっという間だった、なんて人は言う。

でも人間は傲慢なんだな、やっぱり。
頭ではわかっていても
胸の奥底では一攫千金を夢見ている。
体内で不純物が蓄積されて
ずっしり重い身体になって
いつ雨が降ってもおかしくない空のように生きる。

そんな灰色に見える生活の中にも
キラキラやワクワクは隠されている。
仕事で互いに感謝し合う瞬間に出会うこと、
ドラマの次回作の配信を観ること、
宅配便の再配達を受け取ること、
また会おうねと言い合った人と会うこと、
疲れた日のあれ食べたい!を叶えること、
起きがけにコーヒーの香りに包まれること、
ちょっとしたワクワクを待ち望んで
いまここに居る。

大人の階段は存在しない。
身体が重くなって歩くのがしんどくなるだけで
多分ずっと人生は平坦だ。
大きい人にはなれないけれど、
毎日の小さなキラキラを見つけれる人になって
大人も面白いぜなんて言える日が来る(といいな)

なんて考えながら今朝もコーヒーを淹れる。
美化された思い出も
そこに混ざり込んだ苦みも旨みも
体内に流し込んでエンジンをかける。
コーヒーの香りを身にまとって今日も生きよう。

#創作大賞2024

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