ウェルビーイングは、それぞれの「日常」にある
◆WOMBの使命
WOMB Business Incubator(以下:WOMB)は、ヘルスケア・ウェルビーイングに特化した起業家を支援する仕組みです。どのようなことを目指すプログラムかについて、初回記事ではお伝えしました。
WOMBは、プロダクトを作ることやビジネスを生むことだけを目標としたプログラムではありません。
これまで目をむけられていない問題に光を当てる、
社会に新しい「価値観」を根付かせることを目指しています。
だからこそ、10か月という長い時間をかけて、起業家と社会、それぞれが求める「健康観(=ウェルビーイング)」を繋ぎ合わせていけるように、インキュベータープログラムを設計しています。
◆ウェルビーイングの定義と「果てしなさ」
もともと、WOMBは、厚生労働省主催ジャパンヘルスケアベンチャーサミット(通称:JVHS)において、起業家を対象としたミートアップを主宰したメンバーではじめました。
2018年には、女性起業家に特化したミートアップを実施しました。女性の目線から生まれる多様な視点から感じる未来への希望と共に、まだまだ解決されていない課題が残されていました。
その1年後、2019年には、身近な課題まで見つめるため、幅広い健康・医療ーウェルビーイングに特化したミートアップを行いました。多様な方々にご参加いただき、多角的な視点が得られる、また、新しく活動を始める方々を後押しするような機会となりました。
そのような中で、この活動は、「単発のイベントではやりきれない」という思いを持つようにもなりました。
改めて、「ウェルビーイング」という領域の特徴、重要性に目を向けたのです。
⑴ 幅広すぎるイシュー(社会課題)
WHO(世界保健機関)では、健康の定義を、以下のように述べています。
" Health is a state of complete physical, mental and social well-being, and not merely the absence of disease or infirmity."
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」
ウェルビーイングは、専門的視点だけでなく、当事者の痛みや感情、そして、生き方、社会とのかかわり方まで、幅広い領域を網羅しています。実際に、登壇したスタートアップのテーマも多岐にわたりました。
⑵ 解決策も多様であり、経済効果が大きい
ウェルビーイングのサービスは、多様であり、その中には、マインドフルネスや伝統医学だけでなく、ウェルネス不動産、ヘルスツーリズム、ワーキングプログラム等、データ、サイエンスといった医療分野で主に使われているものだけでなく、代替療法まで含みます。
The Global Wellness Institute (GWI) がウェルネス産業の経済効果について2018年にまとめた報告書によると、世界における市場規模は4.5兆ドル(約450兆円)、世界経済生産高の5.3%を占めていました。2015年から2017年まで2年間の成長率は2倍近く成長していました。
これまでの医療・健康からは、異なる視点・異なるプレーヤーからサービスが生まれることが期待されています。特にミレニアル世代の消費者は、彼らの選択は意義や目的、個人的な満足感を志向する傾向があり、さらにマーケットは伸びるだろうともいわれています。
◆課題のみつけかた
こんなに広い領域の中で、「課題」「視点」をどうみつけるのか。
「ヘルスケアは敷居が高い」「小難しい」と考えられている方もいらっしゃるので、コロナ禍での状況などを事例に、まとめてみました。
⑴喫緊な課題
新型コロナへの感染リスク予防や医療機関への配慮等から、オンラインでの医療相談が実際に使われるようになったことは、記憶に新しいと思います。通信会社、薬局、スタートアップなど、ユーザーの不安に寄り添うサービスが多く無償提供され、新しいインフラとして根付き始めています。
⑵ 「切実」な課題
新型コロナウィルス特措法に基づく緊急事態宣言の余波により、インターネットでは、緊急事態宣言や感染者の数等のニュースが目立っていました。
それでは、新聞等はどうでしょうか。筆者は全国地方紙等のヘルスケア関連記事をチェックしていますが、その中では、健康・医療・福祉の分野では、様々な動きが起こっていました。
医療従事者の不足、感染予防予防のために、不急の手術や治療、健康診断などの延期が起こっていました。
①重症化リスクの高い生活習慣病罹患者が、通常の通院がしにくくなる
②命に係わるものではないが、深刻な課題に対する必要な治療がうけにくくなる
学会が、不妊治療を行っている方の治療を延期するという発表をしたことで、不妊治療患者には、不安やもどかしさを感じた方もいらっしゃったようです。
③人に会わないからこそ、まとまった通院・治療ができると感じる
美容外科の一部では、通院する人もいたということも言われてました。学会ではできるだけ不要不急の対応はしないと発表していたにも関わらず、通いたいという問い合わせが多く寄せられたとのことです。
近くに専門家、医療機関等にお勤めの方、ご家族に当事者がいらっしゃる方以外は、ご存じな買ったこともあるかもしれません。環境や情勢が同じでも、それぞれの背景によって、感じる「不便さ」「切実さ」は違う。同じテーマでも、深く掘り下げて、情報を眺めるだけでも、気づくことは広がります。
⑶自分が困る問題
それでは、新聞や記事などを隈なくチェックしないと、課題にはきづかないのか・・・というと、もちろん、そんなことはありません。
ステイホーム期間、通常と違う生活を送っていたころ(3-4月)、国内外の知人に、健康の面で今気になっていることを聞いてみました。
結果を、年代別にまとめてみると・・・
(20代): 目の疲れ、睡眠不足、運動不足、食事バランス
(30代): 運動不足、腰の痛み、食事・酒の量、ストレス
(40代): 運動不足、肩こり、倦怠感、持病のケア
(50代以上) : 大病を患う心配、体力不足、感染症予防
新聞や記事を見なくても、ある程度の示唆が得られました(笑)。ライフスタイルの変化で、これまでの生活よりも、ご自身の健康や生活に対する「弱点」に気づくようになっていたことが印象的でした。ご自身の変化を観察するだけでもヒントが得られ、そのバリエーションは人の数だけあると言っても過言ではありません。
◆これからのサービスに必要なこと ~VB事例から~
このようなご自身ならではの気づきがサービスになった事例を紹介します。
コロナ禍では、介護や育児の負担で、業務が困難になっている方もいらっしゃいました。特に、通所介護などの1日高齢者の方のお世話をしていただける業者の休業が相次いでおり、気が休まらないご家族もいらっしゃったようです。
仕事と介護の両立支援クラウド(LCAT)を提供している株式会社リクシス(東京都・港区)は、取締役副社長の酒井穣(さかい・じょう)氏の介護経験をベースに事業になっています。こちらは、先述の2019年ウェルビーイングミートアップの登壇者です。
酒井氏の著書『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』には、介護を行うことでキャリアの一部をあきらめてオランダから日本に帰ってきたことだけでなく、親御さんの人生のことを理解していなかったことへの後悔や気づきが記されています。介護がうまくいかないことで思い悩むことは、誰もが経験することです。介護が必要になったそのときのために準備をしておくこと、ご家族と対話しておくことが大切と、述べられています。
酒井氏は、オランダでも先端のテクノロジーに触れていた経験やスキルだけではなく「この問題をどうにかしなくてはいけない」というご本人の強い思いをしっかりと叫ぶことで、その魂を、ご自身のビジネスに宿しているのでしょう。
ウェルビーイングの事業を興す起業家は、身近な人の健やかさ、幸せ、豊かさを願う方、近くの問題を見過ごせない方がほとんどです。心温まることだけでなく、考えるのが辛いようなことも、日々の暮らしの中で持ったわずかな違和感がきっかけになることもあるでしょう。
WOMBでは、ご自身が強烈に感じること、リアルに見ている課題を表現することから、ビジネスを作っていきます。1つ、ご自身が気になることを頭に浮かべながら、10か月間のチャレンジを見ていただければ幸いです。
※ WOMB2020のチャレンジテーマ(19つ)は、公開セッションやFacebookページ(公開)よりご覧になれます。
第2回の公開セッションは、「ビジネス思考法」。
著者:WOMB Business Incubator Co-Founder 横山 理佳 (OWLS,inc)
ヘルスケアとサイエンスの社会実装家。WOMBの立ち上げに参画しインキュベータープログラムの運営をしながら、チャレンジャーとして、健康によい行動をうっかりしていただけるための仕掛けを準備しております。小さい頃の夢は、戦隊もののピンク。
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