「WOMAN Next 国際女性デーinぐんま2022」キックオフインタビュー 一般社団法人WEP代表理事 寺田有希実さん
上毛新聞社は、女性活躍推進に取り組む企業・団体を応援するキャンペーン「WOMAN Next 国際女性デーinぐんま2022」を実施する。
特集の第1弾として、中小企業における女性の働き方改革に尽力し、岐阜県を中心に活動する一般社団法人WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(WEP)の寺田有希実代表理事にインタビュー。
設立の経緯や活動内容、同法人が目指す「女性と男性が力を合わせて得意なことを生かし合う社会」の在り方などを聞いた。
(以下は2021年10月22日付上毛新聞に掲載されたインタビューの転載です)
WEPは、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、主に中小企業を対象に女性の働き方に関する講演会を全国各地で行うほか、子どもと出勤する「カンガルー出勤」の導入支援などに取り組んでいる。
女性が成果を挙げられる環境が整えば、企業の業績アップにつながると思うからだ。WEPの設立は、勤務する会社で取り組んだ風土改革がきっかけだった。
「会社を変えたい」から辞めずに働いた
会社は建設業で、2008年に経理業務を担当するパートとして入社した。従業員25人のうち女性は2人。残業や休日出勤は当たり前、「女は黙っていろ」と言われるような、いわゆるブラック企業だった。
転機が訪れたのは3年後。希望がかなって正社員に登用されたころ、2人目を妊娠した。40歳を過ぎて体力に不安を感じ、「残業の多い職場で、子育てをしながら働くのは無理」と辞職を申し出たところ、それまでほとんど話す機会のなかった社長に引き留められた。「この先、どう考えているのか」。
当時、会社は業績が悪化して辞めていく人が後を絶たなかった。社長の問い掛けは、危機感から来る相談のようだった。「社員が何を考えているのか知りたい。会社を変えたい。力を貸してほしい」との思いに心を打たれ、辞めずに働く方法を考えた。
働くことは好きだった。でも子どもとの時間も大切にしたい。すると社長に「海外で子連れ出勤の事例がある。うちも試してみよう」と勧められ、出産1年後に子連れ出勤を実践した。
電話や来客対応の際に子どもが泣くと周囲の目が気になったが、社長が率先して面倒をみてくれた。次第に男性社員もおむつ替えやミルクの準備などに協力してくれ、接点のなかった若い世代ともコミュニケーションが取れるようになった。
幼い子どもの手前、乱暴な言葉が飛び交うこともなくなった。みんなで子どもを見守ろうという意識が芽生え、「未来の働き方の選択肢の一つになるのでは」と強く感じた。キッズルームを設けるなど、全社的にカンガルー出勤を進めるようになった。
悩みを共有できる場をつくりたい
その後、社内で働きやすい環境づくりに取り組む「チーム夢子(ゆめこ)」を結成。毎週水曜日に「ノー残業デー」を設けたり、社内の課題を投書する「改善ボックス」を設置したりした。はじめは不満の声もあったが、業務内容を把握して無駄な作業をなくすことで少しずつ改善できた。取り組みのおかげで風通しが良くなり、業績も上がった。現在、従業員は60人に増え、そのうち半数を女性が占めている。
子育て世代の女性は家事や育児に追われ、キャリア形成が難しいという問題もある。それなのに、子どもの成長とともに、お金はますます必要になっていく。働き方改革に関するセミナーに参加した際、こうしたジレンマを抱えた女性が多いことに気付いた。「悩みばかりの人生なんておかしい。悩みを共有できる場があれば、解決の手だてになるのでは」と考え、自分の経験を広く伝えようとWEP設立に至った。
WEPの活動は、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメント(権限移譲・能力開花)を図る」の実現が念頭にある。講演では、会社の風土改革事例を紹介するほか、女性社員の比率向上の必要性などについて話している。
カンガルー出勤に関心のある企業を招いた見学会や、オリジナルのSDGsバッジの販売収益を、ひとり親家庭のランドセル購入費用に充てる事業も展開している。カンガルー出勤は、今のところ地元の岐阜県内で3社導入している。取り組みが実を結んでうれしい。
「カンガルー出勤」で子どもも大人も笑顔に
改革にはトップの意識改革が必要
女性の就業率や管理職の割合が高まる中、優秀な人材を確保しようと、働きやすい環境づくりに取り組む企業が増えている。だが中小企業の意識はまだ低い。そのため講演会の参加企業には、働き方改革に取り組む担当者だけでなく、経営者にも参加してもらうようお願いしている。改革のためには、トップが意識を変える必要がある。
コロナ下ということもあり、現在も小学3年の息子と出勤することがある。息子にとっても、職場で過ごすことは生活の一部になっているようだ。最近、学校でSDGsに関する授業を受けたといい、「お母さんの会社はもう取り組んでいる」と誇らしげに話してくれた。自分が勤める職場は、「子どもに働いてほしいと思える職場かどうか」という視点で考えてみてほしい。
私たちは今、時代の変革期に生きている。「女性活躍推進」と聞くと、女性が男性と肩を並べてバリバリ働くイメージが強いかもしれない。だが本来は、それぞれの個性や得意分野を生かした「全員活躍社会」がゴールではないか。次世代のため、みんなが当たり前に輝く社会に向けて活動を続けていきたい。
【略歴】 てらだ・ゆきみ 1969年、岐阜県生まれ。2008年に建設業の三承工業(岐阜市)に入社し、残業時間の軽減や子連れ出勤など社内整備を進める。女性活躍の促進やSDGsの普及・啓発活動などが評価され、政府の第2回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞。18年にWEPを設立。全国各地で講演活動を行うほか、カンガルー出勤の導入支援などに取り組む。現在は同社人事課長。一男一女の母。
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