「ウーマン・ネクスト 2021 」キックオフインタビュー 田中俊之さん(大正大心理社会学部准教授)
女性活躍推進法の成立を機に、「女性の活躍」が話題に上ることが増えました。一方で、その言葉の響きから、どこか人ごとのように感じる男性も少なくありません。
女性の活躍と、男性が抱える問題は表裏一体です。
「WOMAN Next(ウーマン・ネクスト) 2021 」のキックオフ紙面では、田中俊之・大正大心理社会学部准教授のインタビューを掲載。男性ゆえに抱える悩みや葛藤を対象にした「男性学」が専門の田中准教授は「女性活躍推進は男性の長時間労働の是正につながる」と指摘しています。
(以下は1月20日付上毛新聞に掲載されたインタビューの転載です)
◎問題の根っこは「長時間労働」
女性活躍についてここ数年議論されているが、男性の多くは関心が無いように見える。関心がある人でも「女性のため」とか「女性を活躍させてあげないといけない」という考えの人が多い。しかし、それは大きな勘違いだ。
男性が抱える一番大きな問題は長時間労働。1980年代後半に初めて過労死が社会問題化した。長時間労働が原因なのは明白なのに、なかなか解決しない。その問題と女性活躍は同じ根っこでつながっている。
男性は「一家の大黒柱」という役割が課せられ、仕事中心の生活が当たり前とされてきた。今は確かにフルタイムの共働きも増えているが、同じように働いていても男女の賃金格差は10対7ほどある。どちらが育児休業を取るか、短時間勤務にするかを考えた時、やはり女性に偏っている。職場において男女の扱いが不平等であるから、男性が仕事に強く拘束され、たくさん働かないといけない構造になっている。
女性が働きやすい社会をつくるためには、まず賃金の格差を解消することが重要だ。また、そうした社会の実現に向け、男性が当事者意識を持って変えていくこと。それが男性にとってもメリットがあることを、さまざまな場で発信していくことが大切だと思う。
◎世代の常識をアップデートしよう
長時間労働が当たり前の働き方は、男性の育休取得が進まないことにも大きく関わっている。1日8時間、週40時間勤務は最低限で、それ以上働くのが普通という感覚の中で男性は働いてきた。育休だけでなく、そもそも有給休暇も取れていないということを理解し、そこをどうするかを考えないといけない。
長時間労働は慣習化しているため、それを変えるのは非常に大変だ。例えば、エスカレーターで歩かないように国土交通省や鉄道会社があれだけ呼び掛けているにもかかわらず、歩く人がいなくならない。立ち止まって、正しい乗り方をしている人が邪魔に見える。働き方も一緒。定時で帰るという当たり前のことをする人が浮いてしまう状況がある。
これまでの会社組織は男性中心の社会。家に専業主婦がいる前提だから、男性は無制限に働かせていいという認識があった。しかし、今はそういう考えは通用しない。昔ほど男性は稼げなくなった。男女ともに独身でいる人や、仕事一辺倒ではなく、子どもとの時間を大事にする男性も増えた。皆がさまざまな事情の中で働いている。
人は自分の世代の常識を社会全体の常識として勘違いしてしまう傾向がある。その感覚をいかにアップデートしていくかが大事。上の世代の働き方が駄目というのではない。新しい状況を受け入れて、変わっていく人はいる。若い世代でどういうことが起きているかを知ってもらうこと。それにはやはりコミュニケーションが必要だ。
男女ともに働きやすい職場環境について考える「ぐんまのイクボス養成塾」(群馬県主催)の受講者=2019年8月
◎性別が「生き方」に与える影響を知る
男性には、女性が活躍できる社会になることが自分にどういう影響を与えるかを考え、行動してほしい。いきなり行動するのは難しいと思うので、まず重要なのは、性別が生き方にどんな影響を与えているかを理解することだ。
他人に弱みを見せられない、悩みを打ち明けられないということがあるとすれば、それは自分が男性だからかもしれない。男性という性別が自分の生き方に強い影響を与えていることをまず考えてみる。それができると、女性であることが生き方にどう影響を与えているかも想像できるようになると思う。
◎「他者に対する敬意」が前提の社会に
性別を問わず誰にとっても生きやすい社会の実現に必要なことは、多様性を享受することだと思う。多様性を受け入れるには人々の「寛容さ」が必要だが、寛容さには2種類あることを考えないといけない。
一つは消極的な寛容。自分には関係が無いから、いろんな人がいてもいいというタイプ。実は日本で結構はびこっている。ただ、無関心に基づいた寛容さは危険性をはらんでいる。例えばセクシュアルマイノリティーや外国人労働者が自分の身近な問題になったときに、強い拒否反応を示す可能性がある。
一方、積極的な寛容は基本的に「他者に対する敬意」を前提としている。相手への敬意があれば偏見も先入観も生まれない。そうした寛容さを広めていくには、やはりコミュニケーションすること。外国人に対して先入観を持つ人がいるが、外国人にもいろんな人がいる。実際に話すことで、セクシュアルマイノリティーの中の多様性にも気付ける。
多様な人が互いに敬意を払い、コミュニケーションを取ることで「積極的な寛容」が育まれていく。そうすれば誰もが生きやすい社会が実現できるのではないか。
【プロフィール】 たなか・としゆき 1975年東京都生まれ。博士(社会学)。厚生労働省イクメンプロジェクト推進委員会委員、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員。著書に「男子が10代のうちに考えておきたいこと」(岩波書店)ほか。
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