ポタージュ7
だいぶ寒くなりました。冬です。
ものすごく寂しい季節。そんな時に病んでしまうと何もかも億劫になりますね。
安らぎ、探してます。
ポタージュ7
「ごめん、ハンカチありがとう。」
小さな声でそういった彼女の手は涙で濡れて暖かくなっていた。「ありがとう」より先に「ごめんね」、もう彼女を強いなんて思えない。
「何があったか聞かないの?」
なにをやっているんだ僕は。ボロボロの目、先手を取られたこととは別に心が痛くなった。
「そうだね。」
今夜も、月が綺麗だった。
「今日ね、付き合うつもりだったんだ。あいつと。昨日も夜に『マジで好きなんだ。』って連絡が来たから。本気なんだって。放課後会いにいって、あたしの想いを伝えたら『簡単に寝れると思ったから告っただけ』とか言われて、それで…。」
「もういいよ。」
昨日の彼女の笑顔を思い出す。
だから、いくらいい噂を聞かない奴でも嬉しくてさ。もしうまくいく恋なら大事にしたいんだよね。
もう一度泣きそうになる彼女。きっと彼女は、誰もが思った以上に本気だったのだろう。濡れた手が、ボロボロの目がいい証拠だ。そして誰よりも期待と覚悟を持って今日に臨んだ。
かける言葉を探すために月を見る。こんな時こそ力を貸してくれよ。見上げても一緒だ。僕は知っている。月は、照らす人間を選んでいるのだ。
「評判は良くないわよ、けど誰かと寝たことなんて。」
「わかった、もういいから。」
彼女の良くない噂は、彼女が友達の恋人に手を出したところから始まった。当然、本当に彼女がそんなことをしたわけではなかった。
彼女のことを語るつもりはない。けれど僕の知っている彼女は、あの日僕に手をとって走り出してくれるほどに優しいのだ。
ずぶ濡れだったあの日の君に差し出せなかった手を、今なら差し出していいのだろうか。私情を挟んだって、そうした方がいいに決まっている。手を握り、肩を寄せ、強い言葉をかければなにもかもうまくいく気がする。けれどそんなことはできない。僕は、彼女のことが好きなのだ。
非情だ。必ず同じ気持ちになれるものではない。だからこそ人は、僕たちは恋に一生懸命になるというのに。
涙をこらえる彼女と、なにもできない僕。時間が切り取られた世界で、端にいるような気がした。
飲み込んでやりたい。彼女の悔しさも、自分の無力も、月すらも。
「色々あるよな、ほんと。」
切り取られた時間が動き出す。そして、すぐに後悔した。
「あんたはいいよね。見た目で損することなんてなさそうだから。」