Wilderness medicineとの出会い その1
どんなところでも人を助ける救急法「WMA野外災害救急法」は、北米で生まれ世界31か国に広がるプログラムですが、WMAカリキュラムが公式に日本に入ってきたのは2007年。長野県にある(公財)日本アウトワード・バウンド長野校で開催されたのがその始まりでした。
今回、日本に最初のWMAコースを招致した濱谷さん(元OBS長野校校長、現北海道教育大学准教授)に当時のことを回想いただいたストーリーをお届けします。
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それは2000年9月アラスカ、アンカレジでの年に1度北米で開催されるWilderness Risk Management Conferenceに参加した時のことでした。このカンファレンスは、1980年代に死亡事故が多発したことを契機に、アウトドア業界で団体の枠を超え、業界として安全に関するレベルアップを目指し、野外教育、冒険教育、ウィルダネス教育に関わるプロフェッショナル、施設関係者、NPO、大学関係者、ガイドなどが一同に介し、フィールドから組織に至るリスクマネジメントについて、あらゆるトピックを共有するものでした。参加した中には死亡事故を起こした団体の記者会見ワークショップや団体の安全監査システムなど、当時の日本では考えられないようなもので溢れていました。
会場には、ザックやクライミングギアなどスポンサーとなっているアウトドア団体がブースを出しており、その一つのブースに並べられていたパンフレットに足が止まりました。その団体のパンフレットを手に取り、こう思ったのは今でも覚えています「Wilderness First Responderとはなんだ?」。その団体とはWilderness Medical Associates(当時)だったのです。
そのころ私はOutward Bound Japanで、冒険教育プログラムのディレクターやセーフティーマネージャーを務め、縦走登山、ロッククライミング、沢登り、MTB遠征、バックカントリースキー、雪山登山などの活動を人里から離れたフィールドで行っていました。その際、「もしここで大怪我や急病者が出たらどうすれば良いのか?」という不安を常に抱えながら、そうならないよう予防に力を注いでいました。というのも、その当時、スタッフの救急法に関する技術は日本赤十字社救急員養成講習を受講した程度でアウトドアを想定とした救急法は日本には存在しなかったのでした。
日本に帰国後、持ち帰ったパンフレットを読み、難しい医学用語を訳した結果、当時、日本ではまだまだ知られてないアナフィラキシーや喘息発作、傷の処置、脊椎損傷、雷、毒など、心肺蘇生法が中心の日本の救急法とは明らかに違う内容とわかりました。また、北米ではアウトドアのプロやガイドには必須の資格となっており、アメリカやカナダのOutward Boundではスタッフ採用の必須資格とわかりました。これは、「日本のスタッフも資格を取るべきだ」そう即決しました。
当初は自分自身が渡米してカナダかアメリカでコースに参加しようと何度か試みましたが、仕事とのスケジュールが合わず、いつの間にか6年が過ぎてしまいました。このままでは、永久に資格を取ることができないと考え、いっそのことスタッフ全員が受けるよう日本でコースを開催することを考えました。そして、WMA本部にインストラクターへの日本派遣を依頼し、ついに2007年4月Outward Bound Japanのベースがある長野県小谷村にて1回目のWilderness First Responderコースを開催することが決まりました。
その2につづく。
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【濱谷 弘志さん プロフィール】
世界的な冒険教育機関であるアウトワード・バウンドの日本校に16年間勤務し、コースインストラクター、ディレクターなど青少年から企業研修の管理職までを指導、また冒険教育指導者養成コースのJapan Adventure Leadership Trainingのディレクター、リスクマネジメント講習の講師を務める。日本アウトワード・バウンド協会の運営面では、オペレーションディレクター、リスクマネージャー、長野校校長、協会事務局長補佐などを努めた。
また、2002年アウトワード・バウンド・インターナショナルがヨーロッパ(スコットランド・ドイツ)で主催した、セーフティー・リビュー・リーダー・トレーニングに参加し、その後、2007年にOB香港、2008年にOB台湾にてセーフティー・リビュー(安全の監査)を実施、日本校の3回に渡るセーフティー・リビューもホストとして担当する。北米で年に1度開催されるWilderness Risk Management Conference(WRMC)2000年アンカレジ、2003年リノに参加。2011年信州大学大学院教育学研究科にて調査・研究を学び、2013年より北海道教育大学にて教鞭をとる。
Wilderness Education Association, Outdor Educator Certificate
Leave No Trcae, Master Educator Certificate
Wilderness Medical Associate International, Wilderness First Responder Certificate
長野県登山案内人資格
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