「どうしてノートが取れないの?」板書は、実は複雑な処理をしていた【弱みを対策できた親子のケース④】
学校での困りごとの相談を受けることが、よくあります。その中でも、「黒板の文字をノートに写せない」という子どもは比較的多い印象です。
「そのまま写すだけでしょう?」と大人には簡単に思えるため、できない理由がわからないのではないでしょうか。
実は、板書をするプロセスは、複雑な処理が絡み合っています。
処理の途中でつまずく箇所は、子どもによって違います。まずは、つまずいている場所を探り当てる必要があります。その後で、対策を講じていきましょう。
黒板の文字をノートに書き写すのは、実は複雑な処理がなされていた
先生が黒板に書いた文字を、ノートに写していく。1つの作業に見えますが、いくつものステップで構成されています。
1.遠くにある黒板を見る
2.文字を音声に変換して記憶し、どこまで記憶したか覚えておく
3.音声の記憶を保持したまま、黒板から手元に視線を移動
4.音声を文字に再度変換し、一文字ずつ書く
5.2で記憶した文字の次の文字に視線を移動し、その続きを読む
6.3→4→5の繰り返し
これだけのステップがあり、これを連続して行います。プロセスのどこか1つでも苦手があると、「板書を書き写すのが苦手」とひとくくりにされてしまいます。
具体例を挙げると、以下のようなステップです。
⑴ 黒板に書かれた、「めあて わり算の筆算を考えよう」を見る(確認する)
⑵ 「めあて わり算の筆算を考えよう」の文字を音に変換して記憶
⑶ 音の「めあて わり算の筆算を考えよう」を記憶したまま、黒板から手元に視線を移動
⑷ 音から文字の「めあて」に再度変換し、「め」「あ」「て」と一文字ずつ書いていく
何工程にもわかれている複雑な処理をしていると、わかっていただけたのではないでしょうか。
漢字は読めるが、書くのが苦手な小学2年生の女の子
小学校2年生の渡辺唯さん(仮名)は、黒板の文字をノートに書き写すのにとても時間がかります。親御さんが「1文字ずつ(黒板を見て)、写しているのではないか」というほど遅いのです。
また、書いたものをみると、漢字の線が足りなかったり、形がおかしかったり、という場合が多くありました。親御さんも一緒に漢字の練習をしており、テストの前の日にしっかりと確認したのに、テストではほとんどできなかった、ということもありました。
ただ、漢字を読むことはできます。そのため、音に直すのは問題ないはずです。
HUCRoWを受けた結果、唯さんは視空間領域の数値が低いとわかりました。その中でも、形より、位置の把握が苦手だったのです。
そのことから、漢字の形自体はうっすらとでもイメージできていると予測できます。ただ、「どこから線を引くんだっけ」「どこに点を打つんだっけ」といった、漢字を完成するための線や点の位置で混乱してしまうのです。
対策1.黒板の文字を写真に撮る
すぐにできる対策は、担任の先生に協力してもらい、黒板の文字の写真を撮って家に帰ってから写すこと。学校によって応じてくれない場合もあるかもしれませんが、板書の書き写しはすぐにできるようにならないので、写真に撮るような工夫が必要です。
対策2.「はらい」や「とめ」などを個別に練習する
書くトレーニングにも工夫します。1文字が4つに分かれているようなマスで、「はらい」だけ、「とめ」だけ、といった練習をしていきます。
ワーキングメモリ教育推進協会の代表理事である、湯澤正通先生が出版されたワークシートもおすすめです。
「ワーキングメモリに配慮した『読み』『書き』『算数』支援教材」(明治図書)
『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート: 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』(4月発売予定/合同出版)
対策3.点描写のトレーニング
「点描写」のトレーニングも、記憶を保持する練習になります。点が書いてある場所に直線で書かれた図形を、点だけが書かれた場所に書き写すトレーニングです。
対策4.分解して音で覚える
音の記憶はできるはずなので、漢字を分解して音に直して覚えるのもいいでしょう。たとえば「花」をカタカナに直して「サ」「イ」「ヒ」→「サイヒ」と覚えます。音に分解して、さらに書く練習をするとなおよいです。
言語領域が弱く、読むのが苦手な小学4年生の男の子
板書をしたノートに「何を書いてあるのか読めない」と親御さんが言うのは、小学校4年生の木下健太郎さん(仮名)です。
読解や漢字を書くのも苦手で、情報が増えると頭がいっぱいになる傾向があるそう。板書を写したノートは、罫線があるのに斜めに下がっており、何が書いてあるか読み取れません。急いで書いたように見えますが、本人は「急いでいない」と言います。
「夜遅くまで漢字の練習をしているのに、テストの点数が取れない」と親御さんが心配し、「本人もつらいんじゃないか」とHUCRoWを受けることにしたようです。
HUCRoWの結果では、健太郎さんは言語領域の数値が低いとわかりました。小学4年生ですが、1年生の漢字もほとんど読めていませんでした。黒板に「めあて」と書かれていたのに、ノートに「めて」と書いてしまったこともあります。おそらく、「めあて」という音を記憶として保持できなかったのではないかと思います。
対策1.漢字の「読み」の練習をする
それまで、漢字の書き取りの練習はしていましたが、読みの練習は意識していませんでした。そのため、漢字を見て、音に直すトレーニングをしています。2ヶ月ほど続けると、少しずつ読めるようになっていきました。
プリントなどでは楽しくないので、ホワイトボードに書いて「なんて読む?」などとクイズ形式で取り組んでいます。弟が小学1年生なので、一緒に楽しんでいるそうです。
対策2.音読の練習をする
語彙を増やしたり、読み方を学んだりするのに音読は有効です。ただし、文章を見せて「読みなさい」は難しいため、先に読んであげてから、真似をして読んでもらうのがおすすめです。また、都道府県の読みなどをクイズ形式で取り組むのも楽しんでやっています。
対策3.好きなもので意味づけして覚える
好きなものと関連させるのも、覚えやすくなるコツです。健太郎さんはバスケットボールが好きなので、選手の名前から漢字の読みを確認しています。
一人ひとり違うため、保護者のサポートが不可欠
書き写しが苦手なお子さんは多いため、セミナーなどでいろいろな対策をお伝えしています。でも、実際に取り組んでいる親御さんは多くはありません。単純なこと、シンプルなことを生活の中で時間を見つけて取り組むのは根気がいり、簡単ではないからだと思います。
それでも、学校や塾といった集団での教育では、個別に弱い部分のサポートをしてくれるとは限りません。だからこそ、まずは子どもの苦手なところ、弱いところを把握することからスタートしてもらいたいのです。
その後で、すべてのことはできなくても、少しずつできることを見つけてもらえればうれしい。そんな風に思っています。
わが子の強みと弱みをデータで知る「HUCRoW」
編集協力/コルクラボギルド(文・栃尾江美、編集・平山ゆりの、アイキャッチ画像イラスト・北村侑子)
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