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"喜びを数えたら、あなたでいっぱい"
彼と付き合う前にずっと聴いていた曲を、なんだか久しぶりに聴きたくなって、聴いている。
あぁ、やっぱり、鮮明に蘇る。音楽って。
楽器の音のひとつひとつやメロディー、歌詞の合間のためらいは、
あの時の鼓動と呼吸をそのまんま、音に乗せて思い出させる。
いや、この体に蘇らせるのだ。
今でも、ドキドキする。
一生懸命頑張った仕事の後、帰り道で聴いた。
LINEのやり取りを思い返してドキドキして、今度のデートのことを考えてウキウキして、仕事の疲れなんて吹き飛んだ。
身体は疲れているはずなのに、足取りは軽かった。
スキップさえも、できるほどに。
街中でふいに耳にして、心を跳ね上がらせ、そして踊らせた。
君に会えたような気持ちになって、それだけでその日はラッキーと思えた。
顔がゆるまないように必死だったよな。
あたたかく、優しい歌詞で、君を思い浮かべることが出来ることだけで、わたしにとってはすでに幸せだった。
あの頃のようなみずみずしさはもうない。けれど、今もずっと、幸せだ。
この曲を聴いて、変わらず心ときめかせられるのは、今も幸せだからだ。
あの頃、もどかしいほどに君がどんな人か知りたかった。
今はもう、あの頃なんかよりもずっと、君は何が好きで、何に笑うのかを知っている。
知らないことが多い方が、魅力的に思えることもあるかもしれない。
でも、そんなことよりも、
君が心の芯から優しいことを知っている、わたしを大切に思ってくれていることを感じる 今のほうがずっとずっと、大好きだ。
毎日、話したいことはどんどん増える。
君は返事が遅いから、話せないまま忘れていくことの方が多いけれど。
それでも良い。
「あ、この話したいな」
そう思える人がいるだけで、その度君を思い出せるだけで、しあわせなのだから。
「久々にあの曲聴いたら、思い出したよ、あの頃のこと。」
そう言ったら、君は困った顔をして、
「昔の話は恥ずかしいからやめて」と笑うのだろうな。