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これまでと違うマハさんを味わう。『風のマジム』を読んで。

原田マハさんの美術シリーズ(と勝手に命名)三作を読んでSNSにアップしたら、コメントで『風のマジム』をオススメされたので読んでみたところ、美術シリーズとまったく違う書きぶりで、へえええええ、こんなにも違うのかと驚いたので、書いてみます。

登場人物たち

『暗幕のゲルニカ』の八神瑤子、『楽園のカンヴァス』の早川織絵といった、女性の主人公たち。『たゆたえども沈まず』の美術商、林忠正や加納重吉(時代が時代だから当然かもしれないが)や、アートコレクターのパルト・イグナシオ、コンラート・バイラー、キュレーターのティム・ブラウンといった、絵と画家を支えた人たち。どれも魅力的で感情移入できる人物たちで、『風のマジム』を、「とある企業の派遣社員だった女性が、新規事業コンテストで『沖縄産ラムづくり』を提案し、様々な障害を乗り越えて実現してしまう、実話に基づいた物語」とレコメンドされていた私は、勝手に、八神瑤子や早川織絵のような女性主人公が、林忠正やコンラート・バイラーのような重鎮に気圧されながらも、パルトやティムのような心を許せる仲間を得て実現させてしまう話かな、と想像していた。

まあ、簡単に言うと、ちょっとハードボイルド風味をイメージしていたので、「伊庭まじむ」の、何の野心もなさそうな、強い相手を前にすると引っ込んでしまいそうな、柔らかすぎるようなキャラクターに面食らってしまったのだ。とはいえ、「ラムづくり」の実現を邪魔する厄介なキャラクターたちも登場するので、つい、織絵を利用とした秘書のエリック・コンツや、ゲルニカを我が物にしようと瑤子を誘拐したバスクのテロ組織ETAのような輩を想像して身構えてしまう。が、この物語は沖縄が舞台だ。そんな物騒なことは起きないし、そんな人物も登場しない。ちょっと嫌なヤツかも??と思った、派遣社員だからとマウントをとってきた文美枝も、どうせできないでしょ?と決めつけて勝手に仕事を進めてしまう啓子も、実は良い人。拍子抜けといえば拍子抜けだが、幸福な世界なのだ、何の不安も感じなくて良いのだ。こっちは、そういう世界観。

作品歴を見てみると

私からすると、アート三部作(勝手に命名)との違いにビックリなのだが、
マジムシリーズから入った人からしたら、もっとビックリだろう。調べてみると、

『風のマジム』(2010年)
『楽園のカンヴァス』(2012年)
『暗幕のゲルニカ』(2016年)
『たゆたえども沈まず』(2017年)

という発表順だった。マジムのファンからすると『楽園のカンヴァス』の方がビックリだったろう。

休暇中に読もうかなと、マハさんの本は『リーチ先生』と『本日はお日柄もよく』を購入済。違う世界観の物語も楽しみつつ、この後は、またアート系に戻ろうかなと考えている。今は、まじむよりも、瑤子や織絵、忠政や重吉に会いたい気持ち。

映画化

2025年夏には伊藤沙莉さん主演で映画が公開になるらしい。読んだとき、朝ドラの題材にしたら面白そうだな(そしてなんとなくありそうだな)と思っていたのだが、さすがに設立20年ほどでまだ成長フェーズにある会社を取り上げるわけにもいかないか。映画では、本ではあまり触れられなかった、伝説の醸造家、瀬那覇仁裕の仕事や、量産に至るまでの苦労などをぜひ見てみたい(記事検索していたらこのようなnoteもあったので、完全門外不出でおもなく、ある程度は出せる話なのだと期待したい!)

ラムは私にとって好んで飲むことの少ないお酒だが、想像以上にいろんなタイプ、味わいがあるようだ。映画が公開される夏の頃には、吾郎さんがつくってくれた、砂糖の代わりに黒糖、ライムの代わりにシークワーサーをつかった、全部沖縄モヒートを、「マジムの風」のラムで飲んでみたい。

2025年の100冊 001/100


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