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『徳は孤ならず』

友人がSNSで、社会人になりたてのころに感銘を受けた出来事の大元を作られた方の本で感動した!という(もっと長くて深いです)ことを投稿していて興味が湧いた本。そしてそのコメント欄に連なる偶然の報告合戦から、この本の主役、今西和男さんという方が、いかに多くの人たちの人生に関わってきたかが想像できた。読んでみて、それは想像以上だった。

深い関わりがあるのは広島と岐阜だが、今西さんが発掘して育てた多くの方たちが、今のサッカー界を作り、支えている。岐阜の社長を追われたことが原因か、今はご本人は表には出ないが、「今西さんのおかげ」と言う人が、これでもか、これでもかと、わんさか出てくる。しかもそのメンツがすごい。この方の貢献度の高さは、その面々を見ただけでわかるというものだ。

寮監時代、素行に問題のある社員でも、追い出したりせずに役割を与えて距離を縮め、信頼を得るエピソードがあった。はなから悪い子はいない。信じてやれば、必ずわかってくれる。
サッカーの指導者としてもそう。面談で、「わからん」「なんとなく」「適当」としか答えない選手にも、根気強く話をし、指令を与え、はなしができるようにしてやる。今の時代には考えられないが、飲みに行って寮の前でジャージを着たまま酔い潰れてる選手のために、飲み友達に、今はあいつは大事な時だから誘わないでやってくれと話をつけ、早く身を固めさせた方が良いと、付き合っていた彼女とその両親に会いに行って結婚の話をまとめてくる。

チームをクビになって一般企業で働いていた選手に会いに行って復帰させる。

森保さんも、入部直前に獲得選手の数が減らされ、内定取り消しになふところを、グループ会社のチームに所属させ、マンチェスターUへの短期留学にねじ込んでもいる。

相当の無理をしながら、その人のためにとやってきたのだろうと思った。

それがたくさん積もりに積もって、この「徳」になっているのは間違いない。

けれども、ひょっとしたら、いくつかの「無理」の中には、その想いが通じない相手もいたかもしれない。その時は感謝もされ、よかった、となったとしても、事情が変わって裏切るようなことを、してしまった人もあるかもしれない。利用しようとした人、妬んだり羨んだりして陥れる人もいたかもしれない。

岐阜のチームでの顛末は、理不尽な理由で追い出されたように書かれていたが、そういう経営者としての判断に問題があるような、そんな経緯も背景にあるような気がしている。

文中にも、「人を信じ過ぎる」「経営の中に入れない方が良いような人物でも入れてしまう」といった話をした人もあった。チームを率いる指導者としての手腕と、ひとつの会社の経営とでは、振るうべきものが違ったという部分もあったと推測する。

ただ、一方的にクラブを追われてしまったレジェンドの、せめて汚名をそそぎたいと、岐阜に縁のある広告代理店勤務の方が、著者の木村さんに直に依頼したことで書かれたのがこの本だった。

それでも、今西さん自身は真相を語らないから、はっきりとした理由はわからないままだ。

著者は、今西さんが話してくれないなら周囲にいた関係者みんなに話を聞いてやろう、話してくれる人はどんな人で拒否する人はどういう人か、読者に判断を委ねようじゃないか、というぐらい、大勢を登場させたのだろう。

徳は孤ならず、必ず隣あり

徳のある人には、必ず理解者や協力者が現れる、ということ。

[使用例] 苟いやしくも君子を以もって自から居おる者は、徳孤ならず必ず隣あり、其その共に交まじわる所の人も亦また必ず君子にして[福沢諭吉*福翁百話|1897]

[由来] 「論語―里仁」に見える孔子のことばから。「徳は孤ならず、必ず隣有り(人間の徳は、ぽつんと一つだけ存在しているものではなく、必ず隣り合うものがある)」と述べて、孤立しやすいまじめな人を励ましています。

コトバンク

昨年末には、エディオンピースウイングで、レジェンドマッチが開催された。友人の広島サポーターによると、レジェンドOBと言える人物は大勢いるが、最も讃えられるべきは今西さんいうことだ。

実際に、多くの選手、元選手が集まり、大勢のサポーターがスタンドを埋め尽くしたそうだ。

徳は孤ならず、必ず隣あり。

当事者しかわからない真実を、私たちが知ることはないが、この日のスタジアムは、本書のタイトルが示したとおりの光景だったのだろう。

2025年の100冊 007/100

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